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傷に沁みるほどの快晴⑤
「お礼言ってくれちゃうんだ? でもね、実はこの話、僕にとっても有難いの。ずっと想ってた夢が叶うから。僕、こう見えても臆病でさぁ、中々一人じゃ動けなかったんだよね」
「何をしようとしているの?」
好奇心を目に宿らせた玲旺が、腹を立てていたことも忘れて尋ねる。氷雨は勿体ぶったように人差し指を唇に当ててニヤッと笑った。
「それは内緒。まあ、僕たちのボスはキミだからね。すぐに知れてしまうだろうけど」
「久我さんと氷雨さんが組むんだから間違いないよ。楽しみにしてる」
「うん。キミが日本に戻ってくるまでには、ちゃんと軌道に乗せておくよ」
アイスコーヒーを一口飲んだ後、氷雨が「寂しくなるなぁ」と口にしたので、玲旺も静かに頷いた。
穏やかな沈黙が心地よく、カウンター席で二人並んだまま、窓の外をぼんやり眺めた。夏の名残のような日差しを受けて、木の影が気持ちよさそうに揺れている。
「じゃあね、気を付けていってらっしゃい。いっぱいメールするからね」
店を出ると氷雨が握手の為に右手を差し出したので、玲旺もその手を握り返した。
「うん。氷雨さんもしばらく忙しいだろうけど、体に気を付けてね。俺も頑張る。メールもたまには返すよ」
「ちょっとぉ。たまにはってヒドくない?」
氷雨がクスクス笑うので、玲旺もつられて吹きだした。
「これからは戦友だからね。僕はキミがこの世界で戦うための武器になってあげる」
「ありがとう。俺も、氷雨さんが思いっきり戦えるように力を付けてくる」
「楽しみね」
またね、とお互い別々の方向へ歩き出す。
青い空を見上げていたら、どうしようもなく久我に会いたくなった。「行ってきます」の代わりにメッセージを送るくらいは許されるかなと、玲旺は文字を打ち込む。
――氷雨さんは俺の武器になってくれるって。久我さんは?
スマホを掲げ、空に向かって送信ボタンを押した。うっかりすると「会いたい」と書いてしまいそうで、ついつい可愛気のない言葉を並べてしまう。返信は来ないかもしれないと小さく息を吐いた次の瞬間、メッセージの通知音が鳴った。
画面を見た玲旺は、往来の多い商店街の真ん中で立ち止まる。
『それなら俺は、お前を守る盾になる』
気付くとスマホを胸に抱いていた。油断したら大声を上げて泣いてしまいそうだった。
今ここがスタートラインなんだと知る。自分を支えると言ってくれた人たちの、行く道を照らす光になりたいと強く思った。
『ありがとう』
その言葉だけ久我に送った。本当はもう一言付け加えたかったが、それはまた会った時に直接伝えたい。
明日の今頃はもう飛行機の中だなと、玲旺は思い切り息を吸い込む。
どこまでも高く飛べるような気がした。
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