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◇第7章 One year later◇*第29話* 二度目の冬

 目まぐるしく変化していく日々に必死に食らいついているうちに、季節は容赦なく移り変わっていく。 「そういえば、去年の大晦日はレオが急に泣きだしてビックリしたな。あれからもうすぐ一年か」  鍋をひと混ぜしてからコンロの火を止めた月島が、急にあははと声を上げて笑った。  定休日のカフェで、調理場が見えるカウンター席に座っていた玲旺は思い切り顔をしかめる。 「何でいきなり思い出したわけ? つーか、言うほど泣いてねぇし」 「んー。芽キャベツ見てたら、もうすぐクリスマスだなと思って。そしたら大晦日の記憶まで蘇ってきた。はい、お待たせ。今日は丸ごと芽キャベツ入りのポトフ」  玲旺の目の前に持ち手の付いたココット皿が置かれ、コンソメの良い香りが辺りにふわっと漂った。 「わ。この器、お洒落だな」 「熱いから気を付けて」  玲旺は昨年のあの日以来、カフェの定休日や閉店後に、こうして月島に料理を振舞われていた。遠慮なくものを言う玲旺は、どうやら試食役に向いているらしい。 「どう?」 「美味いよ。この前のより、今日の塩加減の方が好きだな。丸ごとの芽キャベツは見た目も良いね。色が綺麗」 「そっか、良かった。レオが持ってきたワイン開けようか。ってか、もっと安いワインでいいのに。こんな良いヤツ記念日にしか飲まないだろ、普通」  遅めのランチで気軽に開けるには、少々贅沢な銘柄に月島が(おのの)く。 「そう? でも、俺が飲みたかったんだからいいじゃん別に」 「まぁ、ね。俺は便乗して飲めるから有難いけどさ。レオって何だか浮き世離れしてるよなぁ。卵かけご飯も知らなかったし」  月島は話しながらも、ワインのコルクを綺麗に引き抜く。  グラスに注がれる赤い液体を眺めていたら、カウンターに置いてあったスマホからメールの通知音が鳴った。手繰り寄せて開いたメールを読んで、玲旺は目を見張る。

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