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この現実を想像していなかったわけじゃない。ただ、予想以上に面倒な事になっていて、俺は既に、クラスマッチ開催前に、ちょっと疲れている。 朝の8時半過ぎ、開会式までまだ少し時間があったから、必要な書類や物を教室で確認していた。藏元は別の準備があるから、只今別行動中。 そこを狙ったかのように、次から次へと生徒がコソコソとやって来ては似たような質問を繰り返し聞いていくのだ。その質問に対して俺は心のなかで思った事を、棘の無いように変換して答えている。 Q.藏元くんは何に出るの? サッカーだよ。それ以外は成り行き次第。 (主に交代選手要員だよ。俺がやめろって言っても頑固藏元は聞かないから、「交代無かったら出番少ないじゃん!」とかのクレームなら、直接藏元に言ってね。) Q.藏元くんは応援されても平気な人かな? 集中を邪魔しない程度なら大丈夫だと思う。 (アイドルにするような合いの手とかしなければ大丈夫だよ。“藏元くん”って書いてある団扇は、取り敢えず地球の裏側にでも隠しておくれ。) Q.藏元くんに差し入れするスポーツドリンクは何がいいかな? レモン味とかの、定番でいいと思うよ。 (そこに個性は要らないだろ。テレビのお笑い芸人が飲むような、マムシとか納豆とかゴーヤが入ってる個性満載のスペシャルドリンクでも作るつもりですか……?恐ろしいので、差し入れするなら市販の安全なやつでお願いします。藏元の内蔵の為にも。) Q.藏元くんはお昼どこで食べるのかな? 食堂の混み具合にもよると思うけど、人混みは避けると思うな。 (取り敢えず、人がいないところだよ。君らもいないところだよ。……チャンスだとか思うんじゃないよ!人がいないからって良からぬ事想像するんじゃないよ!思春期か!……ぁ思春期か。) Q.藏元くん…………僕の事知ってるかな? ……本人に、自分で聞いてください。 (そんなん知らんがな。ねぇねぇあの子の事知ってるぅ?なんて、どんな会話でする質問なんだよ。つか、俺だってあなたの事よく知らねぇよ。聞いたところで会話止まるわ) そんな感じの質問が、訪ねてくる人が変わる度にされる。口を開けば、第一声“藏元”。 もうお願いだから本人のところに行ってください!こっちの作業全然進まないんです!何ですか?俺が友達宣言貰ったからって、藏元の全てを知ってるとでも思ってるんですか!?単純か!!んなわけねぇだろ!つかまだ会って数週間ですけど!? 誕生日も知らなければ、前の学校の事も知らねぇよ!! …………ん?そういえば、聞いたことないな。 藏元の昔話。 「………………」 「ーくん、……成崎くん」 「ん……?ぁ、わり……何?」 「そろそろグラウンドに行かないと。開会式!」 「あぁ、……そうだね。」 腕時計を見た俺は、声を掛けてくれたクラスメイトと共に教室を出てグラウンドに向かった。

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