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いい香りを漂わせていい具合に焦げ目がついたハンバーグ2つ。俺はそれを隠すように、チーズを被せた。
「!!まじかよ……」
「……えっ、もしかしてチーズ嫌いですか?!」
「めっちゃ好き」
「なんだビビったぁ怖いリアクション無しっすよ」
「悪い。この光景が絶景過ぎてつい……」
温まり、溶け出すチーズをじっと見つめる宮代さんがなんというか……可愛い。
お母さんがキッチンに入れてくれなかったってことは、多分こんな料理行程も間近で見たことないんだろうな。
チーズが溶けたハンバーグをフライパンから引き上げ皿に盛り付ける。宮代さんの好奇心と料理レベルに一時はどうなることかと思ったけど、完成形が食べられる見た目になってよかった。
「旨そう」
「そっすね」
「そっちに運んでいい?」
ハンバーグを乗せた皿をソファーまで持っていこうとする宮代さんを、手を翳してすぐに止める。
「まだですよ」
「……そうなの?」
「ソース作りますんで」
「そこまで作れるのか?」
「簡単なやつっすよ」
前置きして、フライパンに残った肉汁にケチャップとソース、塩等を目分量で入れてササッとかき混ぜ煮立たせる。
「これで終わりー」
チーズハンバーグにソースをかけて、手を叩いて終了を告げる。宮代さんも釣られて手を叩いている。
「じゃ、あっちに運んで食べますか」
「あぁ。成崎、飲み物は何飲む?」
「ウーロン茶でお願いします」
冷蔵庫から飲み物を出す宮代さんと、ハンバーグを運ぶ俺。ふたり分の飲み物を渡されてテーブルに運んでいる間に、ご飯も装ってくれた。
夕食を並べ終えたところで、ふたり並んで座る。
「じゃあ……」
「「いただきます」」
手を合わせて、声が揃った。
俺も挨拶したけど、どうしても隣の宮代さんの反応が気になって一口目を食べずに待ってしまう。
「…………」
「…………」
「……成崎、」
「はい……」
「もう“簡単な料理しか作れない”って言うの、やめた方がいいぞ」
「え゛……」
か、簡単な料理でも失敗してるじゃん、……てこと?
「料理できますって普通に言えるよ」
「ぁそっちか」
「旨いよ。最高に旨い」
「よかったっすね……まぁ、チーズのおかげってのもあるんじゃないすか?好きなんすよね?」
「好きだけど、ハンバーグでより旨くなってるんじゃないか?」
いつになく目をキラキラ輝かせてハンバーグを見る宮代さんは最早、お子様ランチを見つめるお子様。
チーズハンバーグ如きに喜びすぎじゃない?それとも庶民料理にそこまで縁がない?自分で作ったからこそより旨く感じる?それにしたって高校3年生がチーズハンバーグに目を輝かせますかね?
純粋かよ。生徒会長様のこんな姿、この学校で俺以外に誰か見たことあるんすかね?
「……ふっ」
「ん?どうした?」
「いやなんでも……」
「なんだよ」
「なんでもねぇっす」
「言え」
「いいっす大丈夫っす」
「お前また余計なこと、……言え成崎」
「あはははっ」
怖い目をしたって駄目っすよ。だって口元が笑ってる。
俺は笑いが堪えられなくて顔を背けた。
箸を置いた宮代さんは、俺を向き直らせようと右手首を掴んで揺すってくる。
「成崎」
「あーあーあー」
「何想像したんだ」
「あーあー聞こえないぃい」
「成崎」
「つか揺らしすぎっすよー」
「………………優」
「……ぇ………………?」
突然の名前に、呼吸を忘れた。
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