94 / 321

94

すき【好き】 好くこと。好みに合う。ある物事・人に心引かれる。 辞書で引くと大体こんな説明書きがされている筈だ。改めて考えてみても、俺が認識してる好きの意味は変わらない。 ということで、意味の誤解はまず無さそう。 問題は好きのレベルだ。 1、後輩として好き、の場合。 それはとても有り難いことです。ゴロゴロいる後輩たちの中で、俺なんかに目をかけてもらえるなんて身に余る光栄であります。 2、友達として好き、の場合。 たくさんのファンに囲まれて、内面外見ともに非の打ち所の無い友人もたくさんいて、人間関係に恵まれているあの生徒会長様の友達になれるなんて、超偶然的で奇跡みたいなものです。 3、人間として好き、の場合。 それは波長が合うとか、一緒にいて落ち着くとかの相性の話で……。実際、同じ小説にハマってるくらいだから好みは一緒なんだと思う。宮代さんと同じ好みだなんて、ちょっと恐れ多いところはあるけど。 4、……恋愛的意味で好き、の場合。 これはもう……論外だ。この学校にいる以上、同性に好意を持とうがそれはもう個人の自由で偏見はない。宮代さんが男を好きになっても……驚きはするけど、……それも自由だ。 ただ、その好意が向けられる先が俺でないことは確かだ。 繰り返すようだけど、宮代さんには内面外見ともに素晴らしい、才色兼備の友人がたくさんいる。そんな人たちには見向きもせずに、尋常一様、平々凡々な俺に恋愛的好意を持つ? ははは、馬鹿言わんでよ。俺はそこまで傲慢じゃないし、自惚れもない。人に好かれるような自信もない。 ……なんか自分で言って悲しくなってきたんだけど。まぁとにかく、全否定できるほど恋愛的好きでは決してない。 と、いうわけで。 「ぁ、ありがとうございます……で、あってます?」 「ん?」 「宮代さんに好きって言ってもらえるなら、こんな俺でも少しは生きてる意味あるんだなって思いました」 「……いや、別に励ましてるわけじゃ」 「俺も宮代さんのこと、好きっすよ」 男として、先輩として、人として、本当に尊敬してます。 「……………………」 「?……ぉ、わっ!?」 黙った宮代さんを見つめていると、突然顎に触れていた手が背中に回されて、ぎゅっと抱き締められた。驚いて変な声は出したけど、特に抵抗することもなく宮代さんの腕の中に収まる。宮代さんに対して、俺は全く警戒心がない、と思う。 「…………あの、宮代さん……?」 「優」 「っ…………名前慣れないんで、出来れば普通に……」 「じゃあ慣らしていこう」 「は?」 「これからは、ふたりのときは名前で呼びたい」 「……なんでいきなり」 「そのほうが、距離が近くなった気になる」 理由が子供っぽいよ宮代さん。呼び方でそんなに心の距離が変わるか……?いやでも、親近感が湧くのは確かか?……まぁ、ファンの前で呼んだら即地獄行きだけど……ふたりのときに宮代さんがそうしたいならいいか? 「………………」 だとしても、俺も宮代さんを名前呼びするのか?それはちょっと……身の程を弁えるべきというか…… 俺が無言で悩み続けていたためか、宮代さんが耳元で微かに笑った。 「悩んでるな」

ともだちにシェアしよう!