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すき【好き】
好くこと。好みに合う。ある物事・人に心引かれる。
辞書で引くと大体こんな説明書きがされている筈だ。改めて考えてみても、俺が認識してる好きの意味は変わらない。
ということで、意味の誤解はまず無さそう。
問題は好きのレベルだ。
1、後輩として好き、の場合。
それはとても有り難いことです。ゴロゴロいる後輩たちの中で、俺なんかに目をかけてもらえるなんて身に余る光栄であります。
2、友達として好き、の場合。
たくさんのファンに囲まれて、内面外見ともに非の打ち所の無い友人もたくさんいて、人間関係に恵まれているあの生徒会長様の友達になれるなんて、超偶然的で奇跡みたいなものです。
3、人間として好き、の場合。
それは波長が合うとか、一緒にいて落ち着くとかの相性の話で……。実際、同じ小説にハマってるくらいだから好みは一緒なんだと思う。宮代さんと同じ好みだなんて、ちょっと恐れ多いところはあるけど。
4、……恋愛的意味で好き、の場合。
これはもう……論外だ。この学校にいる以上、同性に好意を持とうがそれはもう個人の自由で偏見はない。宮代さんが男を好きになっても……驚きはするけど、……それも自由だ。
ただ、その好意が向けられる先が俺でないことは確かだ。
繰り返すようだけど、宮代さんには内面外見ともに素晴らしい、才色兼備の友人がたくさんいる。そんな人たちには見向きもせずに、尋常一様、平々凡々な俺に恋愛的好意を持つ?
ははは、馬鹿言わんでよ。俺はそこまで傲慢じゃないし、自惚れもない。人に好かれるような自信もない。
……なんか自分で言って悲しくなってきたんだけど。まぁとにかく、全否定できるほど恋愛的好きでは決してない。
と、いうわけで。
「ぁ、ありがとうございます……で、あってます?」
「ん?」
「宮代さんに好きって言ってもらえるなら、こんな俺でも少しは生きてる意味あるんだなって思いました」
「……いや、別に励ましてるわけじゃ」
「俺も宮代さんのこと、好きっすよ」
男として、先輩として、人として、本当に尊敬してます。
「……………………」
「?……ぉ、わっ!?」
黙った宮代さんを見つめていると、突然顎に触れていた手が背中に回されて、ぎゅっと抱き締められた。驚いて変な声は出したけど、特に抵抗することもなく宮代さんの腕の中に収まる。宮代さんに対して、俺は全く警戒心がない、と思う。
「…………あの、宮代さん……?」
「優」
「っ…………名前慣れないんで、出来れば普通に……」
「じゃあ慣らしていこう」
「は?」
「これからは、ふたりのときは名前で呼びたい」
「……なんでいきなり」
「そのほうが、距離が近くなった気になる」
理由が子供っぽいよ宮代さん。呼び方でそんなに心の距離が変わるか……?いやでも、親近感が湧くのは確かか?……まぁ、ファンの前で呼んだら即地獄行きだけど……ふたりのときに宮代さんがそうしたいならいいか?
「………………」
だとしても、俺も宮代さんを名前呼びするのか?それはちょっと……身の程を弁えるべきというか……
俺が無言で悩み続けていたためか、宮代さんが耳元で微かに笑った。
「悩んでるな」
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