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「そこまで悩ませるつもりはなかったんだけど……」
「んー……俺のことは好きに呼んでください。ただやっぱり、宮代さんを名前呼びは恐れ多いっつーか……」
「なんだそれ」
抱き締められることで自然と頬に触れていた宮代さんの肩。そこから宮代さんの香水か洗剤か、爽やかな香りが鼻を掠める。
一緒にハンバーグを作っていた筈なのに、なんで油の匂いは一切しないんだ?特殊な何かで体をコーティングしているのかってくらい宮代さんの匂いは、それはそれはいい匂いでめっちゃ落ち着くんだけど……よくよく考えてみればこの状況、変だよね?
「……あの、今さらなんですけど……なんでこんな状況に?」
「ん?」
「俺は…………抱き枕的な?」
「あー……ごめん、優が可愛かったからつい」
まだ言うか……。俺に可愛い要素なんて皆無なんですけど?
つい、でハグするとかどんだけ王子様属性なんだよ。というか、早速名前呼びなのね。意識と行動の切り替えが迅速で、素晴らしいですよ生徒会長。
体を離した宮代さんに俺は哀れみの視線を向ける。
「宮代さん、相当疲れてますね」
「そうか?優の料理で回復してるけど」
「回復アイテムなんて入れた覚えないっすよ」
「はは、回復アイテムか。ゲームっぽいな」
ようやく食事を再開した俺たちは、暫く無言で食べ進める。ハンバーグの味は、宮代さんのお世辞抜きにしても、ちゃんと旨くて、我ながら成功したと思う。
箸を動かしながら、ふと思い出す。
……そういえば、去年宮代さんにピンク色の噂が立ったよな……。今現在の図書委員長様と、恋愛関係にあるとかなんとか……。
その噂を聞いた当初、俺も正直、話8割信じた。
だって図書委員長様はノンケの俺から見てもかなりの美人だったし、両者のファンたちが公認するほど現実味のある恋人像で、学校で宮代さんと一緒にいるところもよく目にしていたから、まぁお似合いというか……疑う要素が無かった。
…………それをたまたま俺がガゼボで話題にしてしまったがために、宮代さんに説教じみた全否定を食らったけど。
あれ以来、宮代さんの恋愛絡みの噂話は俺的タブーになっている。
「ご馳走さまでした」
「でしたー」
手を合わせて、それぞれ挨拶する。
使い終わった食器を流し台へ運び、洗おうと袖を捲ると宮代さんが流し台に立ってきた。
「これくらい俺がやるから」
「……あ、じゃあ拭くので」
「優は勉強の続きして」
「げー」
「げーじゃねぇよ」
うーん……多分だけど、大抵の人は同じリアクションだと思うんすけど。勉強にやりがいや面白味を見出だせたとか、そもそも得意でなければ、好き好んで勉強なんてやらないよ……。
やる気のないままソファーに向かうと、俺の後ろ姿から憂鬱を感じ取ったらしい宮代さんが笑い混じりに言ってきた。
「今度は俺が先生だな」
「…………お願いなので、手加減してください」
見なくても分かる、宮代さんの今の笑顔は絶対Sっ気のあるものだ。
俺は仕方無しに教科書を開いた。
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