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自覚した途端、ソワソワして落ち着かなくなる。首を擦りながらアミから視線を反らして歩きだす。 「でも凄い気になるなぁすーちゃんの好きな人ぉ」 「もういいってっ」 「そんな子がいたのに、今日誘っちゃってごめんねぇ!」 「それは……まぁ……」 「すーちゃん男子校でしょー?だからこういうイベントも必要かなぁって思ってさぁ!余計なお世話だったかぁっ」 にこにこ笑って隣を歩くアミに、前を向いたまま謝罪を口にする。 「……俺こそ、あんな空気にしてごめん」 「あはは、謝ることじゃないし」 「だって、アミも友達に誘われて参加したんだろ?」 「そうだけどさぁあの話はうちも聞いてられなかったし……あっ」 「?」 「亜美ちゃんが話してた元カレも、もしかして知り合いなの?」 「えっ……」 「だってふたり相手に論破するほど怒ってたじゃん」 「……ぁ、あれ、は……あれだよ。ほら」 「何?」 「…………、全然、知らない人のぉ……悪口は聞いてられなかった……から」 「それうちが言ったんだけど」 「言ってない。アミは“あの話は”って言った。俺は“悪口は”って言った」 「めんどくさいなっ!」 イベントを台無しにしたのに、それを責めることは全くせず、いつも通り元気に笑うアミは……本当にいい子だ。 「ぁそうそうっ、今日の成崎家の晩御飯、ご一緒しますねっ」 「はいはい」 アミが泣くところは見たくない、と改めて思った。 *** 「すーちゃんに好きな人ができたんだってぇ」 「ぶふっ!?」 「そうなのか!?」 「あらまぁ」 晩御飯中の食卓で、アミは暴露した。 日中の気持ちは気の迷いだった。ちょっと不幸なこと起これ。ちょっと泣けること起これ。俺の恋愛事情を、両親の前でぶちまけてんじゃないよ。そんな嫌なことあるかい?そんな恥ずかしいことあるかい?思春期なんだけど? 「優、それ、え、どんな子だ?え?」 「それがねー、聞いても全然教えてくれないのぉ」 「なんでだよ!家族だろぉ!」 「お父さん落ち着いてください。優も高校生ですよ、親になんて恥ずかしくて話せないでしょう?」 「そんなの悲しいだろ!だって奈々、俺は知りたい!」 「ふふ、それはお父さんの我が儘ですよ」 「えー?うちもおじさんと同じ気持ちだよ?」 「アミちゃんはそうよね。お父さんとは違って、気になるわよね」 「だよね?うちは聞いてもいいんだよね?」 「えぇ」 微笑む母さんと、わくわくしてるアミと、拗ねてる父さんに俺は顔を引きつらせる。 聞ける聞けないで分類してるけど、俺は言わないからっ!つーか、言えるわけ無いから! 「ねね、どんな子なの?すーちゃん!」 「言わねぇって!」 「なんでー?ちょっと!ちょっとだけ!」 「ちょっとだけってなんだよ!」 「優」 アミの尋問に抗っていたら、母さんの優しい声が妙に重々しく響いた。 「その子は素敵な子なのね?」 「……ぇ……」 「容姿のことじゃなくて、性格のことよ。その子は優にとって、素敵な子なのね?」 な、なんだろうっ……アミみたいに、父さんみたいに、理不尽に来てくれた方が拒絶しやすいってなんなんだろう!? 「……ぁ、えっ……は、はい」 「優は好きなのね?」 「っ……はい」 ぁ、……はいって、言っちゃったよ俺…… 「きゃあっ!ねね!聞いた!?今すーちゃん好きって認めたよ!」 「うんうん!父さん嬉しいっ!」 「ふふ、頑張ってね優」 俺の恋愛話で勝手に盛り上がるこの人たちに、ただただ恥ずかしい思いをする。 なんだこれ……どういう状況だよ。もうやだ。学校に戻りたい。 俺は大きな大きなため息をついた。

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