41 / 41
二人の朝 3
床に座った京が、ソファに座った弘の足の間で太ももを枕にくつろいでいる。普段の弘ならすぐに勃ってしまいそうだけど、朝からベッドの上とお風呂でイチャイチャして、さすがに今日はもうその元気もない。
コロンと頭を弘の足に預けた京が、スマホの画面を覗きながらちょんと太ももをつついて話しかける。
「あのさ、色々してから言うのもカッコ悪いんだけどさ……」
「何?」
「弘は俺と付き合ってくれる?」
「え……」
自信なさそうに言われて驚く。
「弘は好きって言ってくれたけどさ、俺、結構酷いじゃん。正直、俺がやったのって二股? 彼女いても弘に気持たせるような事した気がするし、今回の約束だって弘に誘われなかったら、放置しちゃおうかって考えてた。大事にしたいと思ってたけど、実際は弘も陽菜も大事に出来てない気がするんだよ」
「大事にしてくれてたよ」
「そう思ってくれるのは嬉しいけどさ、俺だったらやだよ。だから弘も、他の人と付き合った方がいいんと思うんだけど、俺、やっぱり弘の事好きみたいでさ……、昨日から一緒にいて、改めて好きだって思った」
顔を見ないまま話していた京が、向き合って弘を見上げる。
「だから……、俺と付き合って」
「……うん、お願いします……」
真っ直ぐに見上げられ、言葉に詰まった弘が何とか返事をすると、へへっと笑った京がソファに乗り上げて、弘を抱き締める。
「俺の事、嫌になったらそう言って」
「ならないよ」
「それでも、不安なのも、嫌なのも全部言って? 黙って居なくなるとかは無しにして」
そう言われて、弘は自分が深く京を傷つけていたのだと知る。
「うん、ごめん。今度はちゃんと言う」
「俺も、不安にさせないように好きって言うし、納得するまで追いかける」
「うん」
「それで、もう泣かさないようにするからさ、弘は俺以外の所で泣かないで」
「何それ、泣かさないようにするんじゃないの?」
「そうだけど、泣きたくなったら俺の所に来いよ。結構……弘の泣き顔ヤバイ。我慢してる声とかも堪らなくなる。俺、誰にも見せたくない」
弘は、我儘な独占欲に心臓を掴まれて「何それ」と笑おうとして失敗する。ぎこちなく笑って、声の震えをこらえる。
「泣いちゃう?」
「泣かない!」
「泣いてもいいのに……。弘は泣き虫だからなぁ」
「いつもそんなに泣かないから! そんなに泣いてたら格好悪いじゃん」
そう言いながら『昨日も泣いたっけ?』と思い出す。そして泣いた状況も思い出して赤くなる。
「泣いてよ。女が泣いたら反射的に謝りたくなるっていうか、罪悪感ばっか感じるんだよ。陽菜もどこまで行っても恋人っていうか守る対象で……。でも弘はちょっと違って、守りたいのと同時にもっと泣かしたいって思ったりもする。……怒る?」
そう言って弘の顔を覗き込む。
「怒ってないよ」
──むしろ、嬉しいかも……と、にやける顔を繕う。
「前『キス友』って言ってただろ。キスもする友達だっけ、友達なのにキスができたら恋人にもなれるだろ? 友達兼恋人みたいな、どっちかだけじゃなくてどっちもってのいいよな。弘とは、そういうのになりたい、な?」
『キス友』ってそんなに前向きなんだっけ……と思いながら、近づく京の唇を受け入れる。
「友達も、恋人も?」
「うん、そう──、どっちも、一番にして」
京はそう言って甘え、軽いキスを何度も落とす。
──好きすぎて、ドキドキしちゃうけから、友達は無理かなぁ。でも……
「ずっと京が一番だよ」
そう言って、キスをした。
ともだちにシェアしよう!