40 / 41

二人の朝 2

 夢と現実の間でたゆたう京の昂ぶりを撫で握ると、グンと張りを増す。ワクワクするような嬉しさに、そのままゆっくりと撫でて感触を楽しむ。時折ピクリと反応するのが可愛くて愛しい。 「んんっ……」  京の寝惚けた呻き。  もっと聞きたくて、唇にちゅっと軽いキスを落とすと、弘は京の腕から逃れて布団の中に潜り込んだ。  薄暗い布団の中で、弘に愛撫されて素直に喜んでいる京の昂ぶりを見る。昨日まで知らなかった、その姿。  吸い寄せられるように唇を寄せた。  昨夜は「したい」と言えなかった、口での愛撫。今なら見られない。そう思うと大胆になれる。  先端に唇で触れ、それからペロリと舐める。ピクピクと反応するのが可愛くて、根本は手で握ったまま先っちょをペロペロと舐めた。  しょっぱいような、苦いような、不思議な味。先端から溢れるその味をもっと知りたくて吸い上げる。ゆっくりと手を動かしながら舐めているうちに、不思議と口腔に刺激が欲しくなり、口に含みたくなった。  ドキドキしながら先端を口に含み、その大きさに感嘆する。  ──これが僕の中に……。  そう思うとより愛しくて、口に含んだまま舌でなめらかな先端の感触を堪能する。 「んっ……ふっ……」  布団の外から聞こえる吐息に勇気づけられて、深く咥え込んだ。口腔いっぱいに満たされるとその充足感と、張りの良いものに口腔を犯される快感に陶然となる。  その行為に夢中になっていると、ガシリと京に頭を抑えられた。 「奥までしなくていいから、握って舐めて」  寝起きで掠れた声にゾクゾクする。 「歯、当てないように……」 「ん……、痛かった?」 「ちょっとね……、大丈夫、きもちいー……」  その声が本当に気持ち良さそうで、優しく撫でる手と声に励まされて「ごめんね」と舐めあげる。  気持ちいい場所に触れると、ピクリと動いて京の手にも力が入る。反応が嬉しくて自然と熱が入った。触れていない自分自身も張り詰めて涎を垂らし、弘は無意識にモジモジと腰を振っている。 「ぅあ……。ね、ひろむ、こっち……手が届くところまで来て……」  ねだられて、頭はそのままで移動する。  するりと足を撫でられ、迷いなく中心を握られる。口腔の愛撫で昂ぶりきったそれは、その刺激だけでも達しそうになった。 「っぁ……、ダメっ……、も、イっちゃう……」 「さわっただけだよ?」  京の、掠れ声が色っぽい。ダイレクトに腰に響く気がする。 「で、も……っ、ダメっ」  きゅっと根元を締め付けて、京が溜息を吐く。 「仕方ないな……。じゃこっち来て」  布団を持ち上げた京が顔を覗かせると、冷たい空気が流れ込む。 「キスしてイこうよ」  そう誘われたら、弘は断れない。手を離して、もそもそと京の元まで這い上がる。 「ほら、チューして」  可愛くねだられて、クスリと笑い笑顔のままキスをする。それから「あ」と止まった。  ──さっきまで、口でしてたのに……。 「へいき、大丈夫だから……」  京は弘の心を読んで、もう一度軽くキスをする。弘の「でも」と続ける声は、そのまま京の口腔に消える。 「ほら」  ぐりぐりと、素肌の股間を押し付けられる。二人の昂ぶりが擦れて、それだけで気が遠くなる程気持ちいい。 「きもちいー……」  舌を絡めながら囁かれて、弘も誘われるようにつぶやく。 「……きもちぃ……」 「ん……このまま、イこうな……」  宥めるように撫でられ、腰を擦り付けられる。京の、固い腹筋と滑らかで逞しい昂ぶりの感触。それから、口腔を貪られ喰われそうになる感覚……。 「……っふぁ……」  夢中で舌を絡めて、唾液と吐息が溢れて……。  ──もう、イくっ……  伝える余裕もなく、追い上げられる。  弘が張り詰めて身体を強張らし、その瞬間の「ぁあっ……」という喘ぎを、京は口腔で受け止める。  喘ぎごと吸い上げて、少し遅れて京も自身解放する。 「っ……」  弘の舌を甘噛みして張り詰めた声を抑える。ふにゃりと柔らかい食感に噛み千切りたくなる衝動を抑えた。 「んぅぅっ……」  痛みか快感か分からない感覚に弘が呻いて、もう一度続けて達する。  荒い息を吐くお互いに身体を預けて、落ち着くのを待つ。弘はまだ震える手で甘く痺れる舌に触れた。舌はジンジンと痺れて痛みの余韻を伝える。 「ごめん、噛んじゃった。痛い?」  おでこを押し付けて京が言った。 「ん、少し。でも大丈夫……」 「なんか柔らかくて美味しそうだから、食べたくなっちゃって」 「食べ物じゃないんだけど」  そう言い返しながら、弘は可愛さと嬉しさで心臓がギュッとなる。友達が、例えば茂に同じ事を言われても気持ち悪くてしょうがないと思うのに、京に言われると嬉しくなる。  京が、自分が感じるのと同じ愛しさを感じてたら嬉しい。  それに噛まれた時、痛みに驚くのと同時に弾けてしまった。昨日だって、挿れられて痛くて仕方ないのに、熱くてなんか……、気持ちいい片鱗みたいなのがあった。  ──京が触れると、痛みだって気持ちいいみたいだ。それが空恐ろしいけれど、どこか嬉しいと思う。  弘が目を閉じて息を整えながら余韻に浸っていると、回復した京が頬に軽いキスをしてから、身づくろいを始めた。  京がキス魔なのは知ってたけど……頻繁にキスされるのは、恥ずかしくて、嬉しくて、なんだかくすぐったい。  深いキスよりも、軽いキスの方が恥ずかしくなるなんて……と、弘は手で覆って赤くなった顔を隠す。 「何してるの?」 「いいの、気にしないで」 「照れてる? 耳まで赤い」 「……はずかし……」  もごもごと答えて逃げると、京は嬉々として追いかける。 「可愛いなぁ」 「もうっ」  ちゅっちゅと手の甲にキスを落とされ、弘は益々赤くなる。そこで満足したのか起き上がって言った。 「そろそろ起きて風呂入ろ?」 「あ、うん。じゃ、お湯ためて来るから……」 「いいって、寝てな。見てわかるなら行ってくるよ」  頭を撫でられ甘い声で言われて、またドキンと心臓が暴れ出す。ベッドに突っ伏して、脱ぎ捨てたままの服を身に付ける京を盗み見る。  綺麗な裸体が隠れていくのは、日常に戻って行くようで名残惜しくて淋しい。だけど伸びやかな肢体が隠れていくその様さえ、嫌になる程格好良くて見惚れる。  パタンと扉が閉じるのを待って、布団を抱き締めた。  慣れた気遣いに、嬉しさと妬ましさが混ざる。動作の一つひとつ、言葉の一つひとつが甘くて蕩けそうになる。 『無かった事』にならない朝が嬉しすぎて、現実感がなかった。全部が夢みたいな気がする。ふふふ、とニヤニヤ笑いが飛び出すのが抑えられない。

ともだちにシェアしよう!