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二人の朝 1
目が覚めて、素肌のぬくもりに驚く。
自室の狭いベッドの上、ぎゅうぎゅうにくっ付いて抱き締められている。
──京って、こんな風にするタイプなんだ……。
勝手にもっとドライだと思っていた弘は、そのぎゅうぎゅうの窮屈さを堪能する。
だけど目覚めてしまえば意識をするわけで、意識したら……。
──心臓が、飛び出しそう……。
こんなにくっ付いてドキドキしていたら、心臓の音で京が起きてしまうんじゃないかと思う。
昨夜、ねだって、抱き合って、あんなにしたのに、朝になったら固くなるのが不思議だ。したいから固くなるんじゃないけど、固くしたままくっ付いてたらしたくなってくる。
──昨夜は、もう無理っていう程したのに。
一人思い出して、赤面する。
京を受け入れるのは想像していたより大変で──。練習した分だけ広がってはいたけれど、それだけでは足りずに時間をかけて繋がったけれど、痛くて、痛くて……。
京には大分気を使わせてしまった。
「痛い? 大丈夫?」
痛みに思わず呻くたびに、止まって聞いてくれた。
「ん……、だいじょうぶ……、つづけて」
「でも……、止めよう」
そう言って挿れたものを引き抜かれて「あっ」と弘は甘い声を上げる。
「……きもちいいの?」…
「わ……かんないけど……抜くの、へん…」
「まだ、する?」
「ん……、ゆっくり……」
「うん、ゆっくりな……」
そう言うとまだ抜けきらないものを、ググッと押し込まれて、「ゔっ……」っと声にならない呻きを耐える。
弘のそこはピリピリとした痛みを訴え、だけど、心は満足している。痛いと言いたくないのに、時折口から飛び出す呻きが恨めしい。差し込まれる痛みに耐えながら「やめないで」とうわ言のように乞う。
京は、半分程を差し込んで、痛みに息を詰める弘を見下ろした。痛みに耐える表情も声も可哀想だけれど、同時に酷く征服欲を刺激される。『乱暴に揺さぶって泣かせたい──』その衝動を抑えつけて、痛みに握り締められた手を包み込むと、縋るように握り返された。
せめて、と空いた手で興奮と快感と痛みに翻弄されて、力を失いつつある弘自身を擦り上げた。
「んぁぁっ」
明らかに音色の違う声が溢れ、京自身が力を増す。その小さな変化にもフルフルと震えて反応する弘が愛しくて、震える吐息を吐き出す唇に、くちづける。
優しくしたくてくちづけたのに、慰めたくて手を握ったのに、その感触に、反応に、乱暴な衝動が突き上げる。
京は小さく「ごめん」と呻き、自身を弘の中に強引に押し込んだ。
「っっ……!」
声にならない叫びが聞こえ、手と自身とが同時にぎゅっと締め付けられる。
「……ぁっ」
堪らない快感に思わず声が漏れる。あまりに気持ち良くて、そのまま抜き挿しする。
「ぅっ……、ぁっ……」
弘の、低い抑えた声が抜き差しに合わせて漏れた。
痛みのせいであろう耐える声が快感のそれに聞こえて、痛みのせいで歪んだ表情が快感に耐えるようで、五感の全てが官能に訴えかける。
京は数度の抜き挿しであっという間に達してしまう。
弘の中で爆発するその時、激しく押し込まれて「ぁあっ」と一際高い声が弘から上がった。けれど自分勝手な京の動では弘は達することが出来ず、でも萎える事もなくピクピクと震えている。
京は達して柔らかくなる自身を差し込んだまま、震えている弘に愛撫を加える。
「ぁっ、あっ、はんっ……」
さっまでと違う、快感の声。そのまま解放に導いて──。
その後は挿入をしないままで何度も触れ合った。今まで触れた事のない場所も、触れられた事のない場所も。
何度も触れあって、くっついているのが自然になるまで抱き合って──。
目の前で眠る、その顔に見惚れる。京は目を閉じると不思議と精悍さが増して男らしく感じられる。
弘は深く静かに溜息を吐き、ひたひたと幸せに浸かる。
こんな風に寝顔を見詰めるのは二度目だ。一度目は仲直りしたばかりの春。あの時は、隠れて自分を慰め、その後寝惚けた京に彼女と間違えられた。
切なくて、悲しくて、だけどどうしても京が欲しいとそればかりで、勇気を出してキスしたけれど、躱されて。
──今が、夢みたいだな。
きっと、今、京に触れても受け入れて貰える。触ってもいいんだと、信じられる。
昨日まで感じた距離がゼロになる。
──これから、どうなるんだろう。どうするんだろう。……どうしよう……?
好きだと言ってくれた。抱き締めて、受け入れてくれた。だけどそれで付き合っていると思える程、楽天的にはなれない。
例え付き合う事になっても春からは遠距離で、社会人になった京がモテるのなんて容易に想像が付く。
一夜限りになっても、卒業までの期間限定でも、後悔なんてしないけれど……。
愛しくて、切なくて、もっと触れたくなる。こんな風に抱き締められて、目一杯くっついているのに、もっと混ざり合いたい。
──まだ、頭の中どうかしてるな……。
冷静な部分でそう思うのに、どうかしたままの僕が首を伸ばして、京の唇にキスをする。ふにゅんとした感触。そうすることが自然だと思えて、自然だと思えることが嬉しい。
一度では足りずに、もう一度触れる。今度は唇をペロリと舐めて甘噛みした。もっとかじり付きたいけれど、それは辛うじて我慢する。
ずっとこうしていたい。その目を開いて僕を見て欲しい。相反する気持ちを持て余して、肩口に頬を擦り付ける。
そうするうちに、胴にまわされた手にぐいと引き寄せられて、身体が密着する。腰がピタリと合わさり弘の昂ぶりを押し付ける形になって、身体を引こうとすると熱の籠った京の昂ぶりに手が触れる。
ズクリ、と身体の中の何かが蠢いてスイッチが入る。
弘は後ろの穴が疼いて息衝くのを感じた。
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