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2 高校編 5 晩秋‐① 夢魔に襲われる

「っ……あっ、や……」    吐息混じりの切なげな声。どこだかわからない、とにかく薄暗い狭い部屋。きっと夜で、外は雨が降っている。   「んっ……しゅ、柊也ぁ……」    切なげに俺を呼ぶその声に聞き覚えがある。十年以上前にあの山奥で出会った時と同じ。少年とも少女ともつかない、あどけなさの残る声。   「……はぁ、あっ、はぁっ」    やけに息を切らしている。こないだドッジボールしてた時よりもはあはあしてる。しかもその苦しげな息遣いはなかなか収まらず、むしろどんどん激しくなっていく。   「あ、あぁっ……や、やだ、いや……」    嫌? 何が嫌なんだろう。誰かに何か嫌なことをされているのか? 一体どこのどいつだ。見つけ出して懲らしめてやる。俺の瑞季に酷いことしやがって。   「あっ、あっ、や、あぁ、だめ……」 「こんなエロい体しやがって、俺を誘ってんだろ」 「ち、ちが……あ、やっ」 「違うもんか。他の男のことも誘惑してたくせに」    そう言って思い切り腰を突き入れる。下半身に甘い痺れが走る。    ああ、なんてことだ。瑞季に酷いことをしていたのは俺自身だ。めちゃくちゃなことを言って責め立てて、無理やり抱いて犯している。荒い息遣いも駆ける鼓動も、全部俺自身のものだ。    瑞季は泣いて許しを乞う。涙に興奮した俺は一段と激しく腰を振る。    嘘だ。こんなことをしたいわけじゃない。今すぐに手を放して、瑞季を解放してあげなくては。頭ではそうわかっているのに、体が勝手に動いて止まらない。無遠慮に深いところまで入って、瑞季が身を捩って泣いて、それでますます興奮して――   「っ……なんで、こんなこと……」 「お前のせいだ。こうやって、無理やりされるのが好きなくせに」    違う違う違う。どうしてこんな酷いことが言えるんだ。俺が本当に伝えたいのはこんなことじゃない。    瑞季の顎を取り押さえて無理やり唇を奪う。淡い桜色をした綺麗な唇。そこに唾液を絡めて舐めしゃぶる。砂糖を煮詰めたような甘ったるい味と匂いに反応し、下腹部がビクッと震える。    ああダメだ。いよいよダメだ。我慢の限界。早く抜かなきゃ。でも体は思うように動かない。抜かなきゃ抜かなきゃと思っている間に、葛藤空しく射精した。     「うわあぁあぁああ!」    絶叫と共に飛び起きた。大量に汗を掻いている。ていうか、どこだここ。辺りはすっかり明るいし、なんか見覚えのある部屋……いや俺の部屋だ。普通に俺の部屋。ここはベッドの上だ。   「ちょっと柊! 何よ、朝から大声出して!」    階段の下から母さんの怒鳴り声が聞こえる。いつも通りの朝の風景だ。    何だ、あれはただの夢だったわけか。あー、よかった。そうだよな。俺が瑞季とあんなことするわけないよな。ましてや無理やり襲うなんて、そんな酷いことするわけない。  ほっとしたのも束の間、股間に嫌な湿り気を感じて布団を捲る。案の定、夢精していた。俺はもう一度大声で叫び、今度はベッドから転げ落ちた。      朝っぱらから散々な目に遭った。汚したパンツは今晩風呂で洗おう。そんなことより、気に掛かるのはあの変な夢のことだ。一応心当たりはある。きっと、寝る前にAVを見たせいだろう。でも抜く前に寝てしまった。眠かったし、あまり興奮しなかった。    それに、自覚はなかったけどかなり溜まっていたのだと思う。たぶん、もう二週間は自慰をしていない。だから変な夢を見たし、夢精までしてしまったのだ。仕方のないことだ。生理現象だ。不可抗力だ。    そうやって自分に言い聞かせればいくらか心は落ち着いたが、教室で瑞季の顔を見ると大変気まずい思いをした。夢に見た艶めかしい姿、喘ぎ声、泣き顔を思い出し、低俗な妄想の対象にして申し訳ないと思いつつも、腹の底が勝手に疼いた。    どんな顔で会えばいいのかわからず昼間は避けていたが、放課後一緒に帰ろうと言われれば無下に断れるはずもなく、諦めて駅まで一緒に歩いた。    秋の細く長い夕日に照らされた瑞季は何物にも代えがたいほど美しく、やはり今朝の夢は何かの間違いだろうと思った。こんなに綺麗なものをあんな風に穢すことなど、決してあってはならない。たとえ夢や妄想であったとしても。    しかし俺の期待は呆気なく裏切られる。    その晩はしっかりと自慰をしてから寝た。二度とあんな間違いが起きないように。なのに、なぜかまた夢の中で瑞季を抱いていた。しかも前回とは趣向が異なり、俺が無理やり覆い被さって犯すのではなく瑞季が俺の上にまたがって、つまり騎乗位で腰を振っている。    嘘だろ。ありえない。瑞季はこんなことしない。あまりにも淫猥だ。夢中で腰を振りながら官能の眼差しを向けるのはやめてくれ。少年のようなあどけない声で喘ぐのはやめてくれ。頭が変になる。もう十分おかしいのに、もっともっとおかしくなる。    だけど俺は若くて健康だし、何より下半身は正直だった。やめてほしいと思いながらも、瑞季の体を跳ね除けて行為を中断することができない。それどころか自ら下から突き上げるように腰を振って、どんどん興奮して、気持ちよくなった。せり上がってくる射精感に抗うことも忘れ、いとも容易く達してしまったのだった。    ある時は、放課後の教室で致す夢を見た。宵闇迫る教室で、都合よく先生も生徒も誰もいない。瑞季は教卓に突っ伏していて、いわゆる立ちバックという体位であった。お互い制服姿で、スラックスだけずらして挿入していた。真っ黒い制服に精液が零れ、白い染みを作った。    またある時は、夏休みに行った海水浴場で致していた。なぜか他の客はおらずプライベートビーチと化しており、砂浜にシートを広げて青姦していた。水着は着けておらず、俺も瑞季も全裸であった。抜けるような青空の下、物凄く開放的な気分だった。下半身も開放してしまった。    またある時は、電車の中で致していた。現実でやったら犯罪であるが、乗客は誰も見向きもしない。車内なのでやっぱり立ちバックで、瑞季は着物姿だったので裾を捲り上げて挿入していた。電車の揺れを利用して突くと、瑞季は窓に縋り付いて善がった。背徳感も手伝って、尋常じゃなく興奮した。

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