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3 大学編 3 梅雨‐① キスのその先 ※

 俺には最近悩みがある。キスをいたく気に入ったらしい瑞季が、事あるごとにキスしてくるようになったことだ。    始めは恥ずかしがって俺にキスをねだることが多かったのに、だんだん慣れて自分からもできるようになり、今では立派なキス魔である。どちらかの部屋に二人でいると、頬や額や鼻先、時々唇に、挨拶のような気軽さでチュッとしてくるのだ。それ自体はいい。小動物みたいでかわいい。むしろ好きだ。    何が問題かと言えば、いつまで経っても次の段階に進まないという点だ。あくまでも軽いキスしかしてこない。前に一度舌を出してみたことがあるが、唇を舐められた瑞季はずいぶん混乱した様子だったので、これはもしやディープキスを知らないのだなと思い、ますます手を出しにくくなった。    実際瑞季のスキンシップは幼い子供のようなそれであり、性の香りがしなかった。本当は大人のキスをしたいけど、純粋無垢な子供を穢すようで罪悪感がある。ましてやエッチしたいなんて言い出せない。童貞だからいまいち勝手がわからないし、俺が抱きたいけどそれでいいのかどうかもわからない。    そんなわけで、俺はひたすらに耐えているのだ。今日の瑞季は特に機嫌がよく、唇にチュッとキスをしてくる。   「それ、何読んでるんだ?」    そのわりに、やらしい雰囲気にはならない。なぜだ。   「英語の教科書。明後日小テストやるっていうから」 「お前は真面目だな」 「普通だろ。専門科目ならまだしも、英語の単位落とすなんてみっともないからな」    今日は日曜で、ここは俺の部屋だ。例によって両親は出かけている。長雨にも負けず、ご苦労なことだ。犬はたぶんリビングで寝ている。歳のせいもあると思うが、瑞季が来る時はいつも大人しい。    さっきまでは瑞季も本を読んでいたはずなのに、いつの間にかテーブルを回り込んで俺の隣に座っている。甘えるみたいに体をすり寄せて、今度は頬にキスをする。俺が頭を撫でると、嬉しそうに鼻を鳴らす。柔らかいほっぺたを俺の頬にすりすりくっつけて、それだけで満足そうに笑う。これではまるで子供同士のじゃれ合いだ。    思い返せば観覧車で初めてキスした時も、あれは瑞季がやたらとくっついてくるんで衝動的にキスしてしまったわけだが、あれだって要は高所が怖いから抱きついてきただけであって、だからつまり、瑞季の行為に性的な意図があったことなんて過去に一度もないのだ。    俺はいつだって瑞季の無邪気な行動に振り回されてきた。だけど今回ばかりは素直に振り回されてしまっていいのかわからない。いくら恋人同士であっても、お互いの意思を確認してから事に及ぶべきだ。何となくの雰囲気で、状況をよく呑み込めていない相手に手を出すのは不正義だ。    そう、頭ではわかっている。大切な人だから大切に扱いたい。傷付けたり怖がらせたりしたくない。だけど下半身は別の生き物みたいなところがあって、思考と関係なく勝手に反応するし、俺の理性も鉄壁じゃないのだ。   「なぁ、柊也」    瑞季が鼻にかかった声で甘える。ほら、またそうやって無邪気に俺を煽る。   「接吻、最近お前からしてくれないだろ。たまにはしてよ」    そう言って口を尖らすので、唇を軽く重ねた。ふふっと楽しそうに笑って、もう一回とねだる。もう一度キスを落とす。次は頬に、まぶたに、その次はまた唇に。そんなことを繰り返すうち、下半身に溜まったものがどんどん大きくなっていく。瑞季が俺の首に腕を回し、何度目かわからないもう一回をねだる。    それが決定打だった。脳内でお経を唱えてギリギリ保っていた理性が、ぷつりと音を立てて切れた。その瞬間、抑えていた本能が暴れ出す。    いきなり後頭部をがっしと押さえ、閉じた唇に無理やり舌をねじ込んだ。瑞季は驚いて肩をビクつかせるけどもう遅い。絶対に離さない。ディープキスの正しいやり方なんて知らない。とりあえず口を塞ぎ、舌を入れ、中を掻き回した。歯ではなく粘膜を舐め、逃げる舌を追いかけて絡め取った。口内は熱く、舌は柔らかかった。   「っ、は……」    しばらく堪能し、口を離した。瑞季は息を荒げ、頬はすっかり上気している。腰に力が入らないようで、くたりと寄りかかってくる。その体を素早く抱き上げて、ベッドに押し倒した。上から覆い被さり、そのまま再度口を塞ぐ。たっぷり唾液を送り込むと、瑞季の喉が上下する。飲み切れなかった唾液が口の端を伝う。   「んふ……んんっ」    上顎の、前歯の裏を舌先で擦ると、瑞季が甘い吐息を漏らす。きっとここがいいところなのだろうと思い、執拗に同じ箇所ばかり責めた。声を漏らすだけでなく、腰がビクッと跳ねる。腕を巻き付け、全身で俺にしがみつく。体がぴったり密着する。    下半身がじんと熱く、重くなる。瑞季のそこも固くなっていて、こいつでも勃起するんだなと思うとますます興奮した。元々膨らんでいた股間がさらに張り詰めて痛いくらい。腰を揺らして、自分のと瑞季のそれとをぐりぐり擦り合わせる。   「っ!? ぁ、や、やだ」 「いや? 気持ちいでしょ」 「ふぁ、あ、あ、でも……」    瑞季は戸惑うような声を上げるが、俺は構わず手探りで服を脱がす。力任せに着物の帯を緩め、胸元をはだけさせる。   「んぁ、な、なに……?」 「いいから脱いで。どうなってんのこれ」    薄紅色の着物の下に、真っ白い着物が覗く。たぶん下着だ。瑞季は苦しそうに息を切らしながら、それでも俺に言われた通り、覚束ない手付きで着物の帯を解き、下着の帯も解いた。俺はすかさず胸元に手を入れて素肌に触れ、一気に引ん剥く。瞬間、目を疑った。   「なっ……」    現れたのは桜色の乳首。薄い腹。ほんのり火照った肌。そこまではいい。問題は、淫らに濡れそぼった局部が露わになったことだ。下半身に着けているはずの布がない。   「おま、なんで」 「?」 「なんでパンツ履いてねぇんだ」 「ぱんつ?」 「そうだよ! ここ!」 「ひゃっ」    イライラムラムラして、瑞季のそれをきゅっと握り込んだ。仮性包茎らしく、完全には皮が剥けていない。陰毛は、一応生えているのだがとても薄く、色が銀色なせいもあってほとんど目立たない。昔とほとんど変わらない、まるで子供のおちんちんだ。そのくせ、一丁前に濡らしているのがけしからん。ひたひたに濡れている。   「ねぇ、なんで履いてねぇの?」 「ひっ……い、いつもは、はいてる……」 「じゃあなんで今日はノーパンなんだよ。こんなはしたない恰好で、うちまで歩いて来たの? それともバス? 誰かに触られたら一発でわかっちゃうね」 「だ、だって……あっ、や、やだ」    指で輪っかを作り、竿を抜いた。皮が捲れて、真っ赤に充血した亀頭が露出する。先走り汁がとろりと零れる。瑞季は嫌がって俺の手を押さえようとする。酷いことをしている自覚はある。あるが、だからといって今さら止められない。   「しゅ、あっ……おこ、ってる?」 「怒ってないよ」 「じゃ、じゃぁそれ……ごしごしすんの、やめ……」    涙声で乞われ、俺は一旦手を止めた。瑞季の顔を覗き込む。   「そんなにいや?」 「だ、って、変なんだ……むずむずして、おかしくなる」 「いやなの? 触られたくない? 怖いの?」    優しく言いながら、裏筋をついとなぞる。瑞季は腰を震わせる。   「やあ」 「ほんとにやだ? 気持ちよくない? ぞくっとくるでしょ?」 「わ、わかんな……」 「本気で嫌ならやめるけど……違うだろ? だってここ、こんなんなってるしさ……」    亀頭を掌で包んで圧迫する。手の中でぴくぴく震えるのがわかる。   「ね? 今のを気持ちいいっていうんだよ。俺、お前にいっぱい気持ちよくなってほしいんだ。お前のこと、好きだから」    耳元でそっと囁いた。手の中のものがぴくっと反応する。   「……また感じた? 好きって言われるの好き?」 「んぅ……す、すき」 「うん、俺も好き。かわいいよ。……だから、ね、いいよな?」    戸惑いながらも、瑞季はうなずいてくれた。    やり口が少々卑怯ではないかと我ながら思う。だけどまぁ、結果的にこれでいいんじゃないかとも思う。付き合っていれば、遅かれ早かれいつか必ず通る道なのだ。

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