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3 大学編 7 冬‐③ ※

   窓から差し込む朝日に目が覚める。小鳥のさえずりが聞こえる。凍るような寒さに身震いし、枕元にあるはずのリモコンを探してスイッチを押した。エアコンから暖かい風が吹く。しばらくすれば暖まるだろう。それにしてもどうして全裸で眠って……   「あ」    布団を捲って思い出した。瑞季も全裸で、胎児のような恰好で丸まって眠っている。寒いのか、不機嫌そうに鼻を鳴らす。俺も寒いので布団に潜った。    あの後、さすがに三回もやれば十分だと思って終わりにしようとしたのだが、理性がぶっ飛んだ瑞季の姿があまりに淫靡だったもので、耐えられずもう一戦交えてしまった。終わる頃にはへとへとで、疲労と睡魔に襲われるような形でぶっ倒れたのだった。    昨晩は瑞季に無理をさせた。途中何度か意識を失いかけていたが、その都度頬を軽く叩いて起こした。おかげで最後まで意識は保っていたが、ようやく終わったとなると瞬く間に眠りに落ちていった。それだけ疲れていたのだろう。無理をさせてしまった。    朝日に照らされて眠る瑞季は、夜の顔が嘘だったみたいに健やかで、純粋に綺麗だ。かわいい。あったかい。そっと抱きしめ、唇にキスをする。甘い。それから体を撫で回す。滑らかで手に馴染む。いつまでだって触っていられる。   「ん……」 「起きた? おはよ」 「しゅう……」    目が覚めているのかいないのか、瑞季はうっとりと舌を絡めてくる。太腿を撫でていた俺の手を掴み、後孔へと触れさせる。まさか、一晩明けたというのにまだ理性が飛んでいるのだろうか。   「み、瑞季?」 「ん……そこ、押さえといて」 「へ?」 「だからそこ……お前のが零れないように、蓋しといて……」    瑞季はぼうっとした口調で言い、足を開いて俺の体に抱きつく。すると必然的に蕾が開いて、中のものがじわりと溢れ出てくる。   「ぁん……だめ、漏れちゃう」    なんだこれは。夢でも見ているのかな。元旦の透き通った光の中、恋人が果てしなくエロい。期待で指が勝手に動く。指先がわずかに埋まる。   「あっ、ゆ、ゆび……」 「ごめん」 「んも……掻き出しちゃやだ」 「でも入れっぱなしだと腹壊すって……」 「平気、だから……零したらもったいない……」    瑞季は俺の胸に顔を押し付け、嬉しそうに微笑む。   「でもゆび、きもちい……入口こねこねするの、好き」    断言するが、入口を捏ね回しているのは俺ではない。瑞季が自分で腰を回しているだけだ。俺の指を使って自慰をするな。   「柊也ぁ……ん、なんか、変な気分……」 「したくなっちゃった?」 「わかんな……もっと触って……」    それがしたいってことなんだけどな。全く、いつまで経っても生娘みたいな反応をする。   「でもさ、あんまり激しくしたら、中のやつ溢れてきちゃうよ?」 「だ、だめ、それはだめ、出さないで」 「……そんなにほしいなら、もっといっぱい注ぎ足してあげようか」    そろそろ焦らすのはやめにして、俺は意気揚々と瑞季に覆い被さった。  が、腰が痛くてそれ以上動けない。今まで全然気づかなかったけど、腰が死ぬほど痛い。これは、あれだ、昨夜酷使しすぎたせいだ。ミシミシと骨の軋むような音がする。ウッと呻き声を上げ、俺は元の姿勢に戻る。   「柊也?」    瑞季が心配そうに俺の顔を覗き込む。   「ごめん、腰がやばくて……」 「昨日いっぱいしたから?」 「まぁ、そう。自業自得ってわけだな。お前は大丈夫なの」 「おれは別に……」 「はぁーもう、格好つかねぇなぁ」    俺は溜め息を吐き、ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。   「お正月なんだから大人しく初詣にでも行っとけっつー天からのお告げかねぇ」    完全にそういう雰囲気を醸しておいて結局できないという体たらくと、瑞季は平気なのに自分だけ腰を痛めたという情けなさから無駄にべらべら喋っていた俺だったが、瑞季が自ら俺の上に乗っかってきたとあっては口を噤まざるを得ない。   「えっ、な」 「お前ができないならおれがする。お前は寝てればいい、から、……んっ」    昨晩散々しただけあって、瑞季のそこは何の抵抗もなく俺のものを呑み込んでいく。昨晩の残滓のせいでたっぷり濡れており、かすかな水音が立つ。根元まで埋まるのに、そう時間はかからなかった。   「ぁふ、ふかい……お、おくが、あっ……」    瑞季はきつく目を瞑って悶える。奥に当たっている感覚は俺にもわかる。容易に深いところまで入る体勢らしく、瑞季は苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。   「き、騎乗位なんて初めてだし、無理しないでも……」 「やだ、したい……お前のこれ、もっとほしい」    うっとりと目を細め、まるで妊婦のように己の下腹を摩る。ぎょっとするほど蠱惑的な表情。もしかしたら本当に孕むのではないかと思わせるような。   「っ……ねぇ、これ、このあと、どうするんだ」 「え? あぁ、動くんじゃないの」 「ど、どうやって」 「どうって……」    俺も騎乗位なんて初めてなのでよくわからない。アダルトビデオ頼りの知識しかない。   「確か上下に……」 「こ、こう?」 「もっと足開いて」 「ん、こう? できてる?」 「んふっ……うん、いいよ。上手」    慣れないながらも懸命に腰をくねらせる。だらしなく大股を開いて結合部を見せつけ、尻を擦り付けるようにして上下に動く。しかし慣れていないものだからどうしても動きが拙く、気持ちいいかどうかと言えば気持ちいいのだが、快感よりはむしろ心地いいような気分になってくる。   「しゅう、しゅうやぁ、どう? きもちい?」 「うん、かわいいよ」 「は、ぇ? きもちいかって、聞いて……」 「かわいいから気持ちいい。好きだよ」    好き、と言うと中が締まる。初めてした時からずっと同じだ。動きが拙いことなんてどうでもよくなるくらい、俺の上で腰を振る瑞季の姿は扇情的だった。この絶景を眺めていればそのうち勝手に天国へ行けそう。   「瑞季は? 気持ちいい?」 「んんっ、きもちいい、」 「夢中で腰振って、恥ずかしくないの。明るいから、お前の恥ずかしいとこ全部見えちゃうよ」 「い、言わないで……」    瑞季は真っ赤になって目を伏せる。でも体は正直で、蕩けた肉襞がねっとりと纏わり付いてくる。   「白い肌もピンクの乳首も、えっちな汁を垂らしてるここも」 「や、やだぁ」 「俺のが出たり入ったりしてるとこも見える。ちゃんと咥えて偉いねぇ」 「やぁ、も、やだって」    嫌と言うくせに一層激しく腰をくねらす。抽送に合わせ、中央の芯がぶるぶる揺れる。使わないからいまだ綺麗な桜色で、だらだらと零れ落ちた透明な汁が俺の腹を濡らす。瑞季が不安そうに両手を彷徨わせるので、手を取って指を絡めた。   「お前のえっちな顔もよく見える。いつもそんな顔で俺に抱かれてんの」 「やっ、やだ、見ちゃいやっ」 「それにほら、くまちゃんも見てるよ」 「えっ、く……」    枕元にちょこんと座っていたクマのぬいぐるみを顎で指し示す。旅行に行った時に俺が射的で取ったやつ。瑞季は大事にかわいがってくれていて、毎晩一緒に眠っているらしい。そのぬいぐるみが、じっと瑞季の痴態を見つめている。   「み、みちゃ、――んぅう゛ッ!!」    瞬間、ビクビクッと瑞季の薄い腹が波打つ。中が小刻みに痙攣し、前からはとろりと精液が溢れる。まさか達したのかと確認する前に、瑞季はぐったりと放心して俺の上へ倒れ込んできた。   「み、瑞季?」 「お、まえ、が……ッ、へんなこと、いうから……」 「見られてイッちゃった?」 「い、いうなぁ……ッ」    余韻に浸っているのか、腰がまだ震えている。瑞季が倒れてくれたおかげで、距離がぐっと近付いた。達したばかりの、どこか気怠げでありながら愛欲に濡れた表情がよく見える。明るい場所で、しかも間近で目にできるのは珍しい。   「なぁ、お前今、自分がどんな顔してるかわかる?」 「ん……しらない」 「すっごくエロい顔。今イッたばっかなのに、まだ足りないって顔してる。イク前もかわいかったしイク時もエロかったけど、イッた後の顔もかわいい。瑞季はずうっとかわいいね」 「んも、へんなこというのやめ――ぁあっ!」    密着した状態で瑞季の腰を押さえ、下から思い切り突き上げた。瑞季はぎゅっと俺にしがみつき、耳元で喘ぐ。   「あふ、んやっ、きゅうに、あんっ、やめっ」 「だって俺まだだもん」 「だ、って、こし、こしは?」 「もう痛くねぇ」    本当に、全く痛くなかった。激しくピストンしても全然痛くない。よくわからないけど、瑞季には何か癒しの効果でもあるのかもしれない。   「あぁう、く、くまちゃんが……くまちゃんがみてるのにぃ、ッ」 「いいじゃん、見せとけよ。それよりこっち集中して。俺のこと見て」    顎を掴んでこちらを向かせる。まぶたがぴくぴくしていて、閉じそうなのを必死に堪えているのだとわかる。   「ね、ちゃんと見て。瑞季のこと見せて」 「やぁっ、は、はずかし……」 「恥ずかしくないよ。綺麗でかわいい。大好き」    涙の膜が張って潤んだ瞳。真ん丸で透き通った、ガラス玉のような瞳。基本は銀色だけど、角度と光の加減によっては青にも緑にも見える。至近距離で覗き込むと、きらきらと金色が散っているのが見える。奥行のある不思議な瞳だ。舐めたくなる。    それから瑞季の髪も好きだ。傷みとは無縁の、透き通った銀の髪。絹のように艶々のストレートヘアが、律動の衝撃ではらはらと頬や額に落ちる。それを指先で梳いて、そっと耳に掛けてやる。   「しゅ、しゅう、おれ、おれもう……あぁッ、またいく、いっちゃうよぅ」 「ん、俺ももう出る……中に出すから、ちゃんと飲んで。一緒にイこうな」    元日の朝っぱらから、俺は瑞季の胎内に精をぶち撒けた。瑞季も、元日の朝っぱらから二度目の絶頂に達し、今度は出さずにイッた。   「……こんなに出したらさぁ、やっぱり妊娠すんのかな」    何とはなしに俺は呟いた。瑞季は俺の上ではあはあと息を切らしている。別に瑞季に向けて言ったつもりではないが、瑞季はきょとんと首を傾げて俺を見た。   「……男同士だから……」 「いや、わかってんだけどね。するわけないんだよな、妊娠なんて。こんなにいっぱい出したのに」 「別に、無駄になるわけじゃない……少しは吸収されるから……お前の一部が、おれの一部になるんだ」 「そういうもんかね」    胸が切なくなって、紛らわすようにキスをした。舌を絡めて唾液を交換する、濃厚なキスをした。    なんだか、どんどん欲張りになっていく。欲望は底なし沼のように際限がない。始めは友達として一緒にいるだけで満足だったのに。恋人になって、それだけで十分だって思っていたのに。手を繋ぐだけでいい、キスするだけでいいと思っていたのに。何度もセックスして、たくさんの種を送り込んで、泣きたくなるくらい幸せなのに、まだ足りないなんて。    俺はいつからこんなに強欲になったのだろう。瑞季の全てがほしい。二人どろどろに溶け合って、魂まで混ざり合って、新しい一つの生命体に生まれ変われたらどんなにいいだろう。瑞季がほしい。瑞季になりたい。何も失いたくない。    だけどそんな願いが叶うはずもない。この胸の切なさは時間と共に薄れていって、時々思い出しては切なくなるけれども永遠にそのままというわけにもいかず、やっぱりそのうち忘れていくような代物なのだろう。それならそれで構わない。      その後、午前中は特番を見たりしてだらだら過ごし、昼頃から近所の深山神社へ初詣に行った。以前そうしたように境内を一周し、甘酒を配っていたのでもらって飲み、表参道の茶屋で団子を食べた。熱いお茶が冷えた体に沁みた。

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