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ひとり寝の夜に

 ぞぞむとレオンと孝弘の会社は:櫻花貿易公司(インフォアマオイコンス)という。  3人が特別に桜が好きだというわけではなく、たんに言い出しっぺのぞぞむが、日本らしくて中国でもよく通じるイメージということで桜を会社のシンボルとして選んだのだ。  今回出店するカフェの名前もそのまま:櫻花珈琲(インフォアカーフェイ)となっていて、日本語表記はさくらカフェ。その北京店のお披露目パーティはちいさなトラブルはあったものの、おおむね好評のうちに終了した。  ぞぞむがプライドをかけて中国全土から集めた手工芸品はその手仕事の見事さとオリジナリティあふれるデザインで注目を集めた。観光客向けの雑誌や雑貨紹介のネットでも取り上げられ、北京店の滑り出しは順調だった。  店舗内に陳列してある商品はもとより、店内においてあるものはすべて商品となっていて、カフェで使っている食器や小物、クッションや壁にかかっているタペストリー、テーブルや椅子まですべて取扱商品で揃えた。  つまり客が気に入れば、店丸ごとの商品を購入することができるのだ。  それもけっこう話題になって、北京事務所のスタッフはかなり問い合わせをもらったと報告していた。  上海店は流行に敏感な上海っ子の気質から最先端のおしゃれを追及した店づくりをしたが、北京店は中国の国内博覧会をイメージした店づくりというコンセプトで、少数民族の刺繍製品や手織り絨毯などを多く揃えている。  この春から夏にかけて、ぞぞむが新疆ウイグル族自治区を回って、絨毯工場まで買いつけに行ったのはこのためだった。店の商品にどうしても質のよい手織り絨毯を手に入れたかったのだ。  ぞぞむが選んできたその手織り絨毯は、店のおくに作られた小上がりに敷いてあり、そこで客は商品を広げてゆっくり鑑賞できるようになっている。  北京店の取扱い商品のなかでは、雲南省の少数民族たちの伝統刺繍を使った布で作ったクッションカバーや化粧ポーチ、ポシェットなどが観光客の目をひいてよく売れていた。  軽くてかさばらず、デザインがかわいいからお土産にいいのだろう。北京で雲南省のものが手に入るというのも大きなポイントかもしれない。  苗族(ミャオズー)の作った布コースターとランチョンマットを数えて袋詰めするという地味な作業を、土曜の夜の閉店後の店で孝弘は手伝わされていた。  おおっぴらにはスタッフと言えないが、こうやって時間があるときはなるべく店にも顔を出している。

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