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第2話
「ねえ、孝弘は祐樹さんのどこが好きなの?」
「なんだよ、急に」
夜の9時に営業を終えた店内でレオンとふたりで商品を揃えているところに、唐突な質問が飛んできた。
顔をあげてレオンを見ると、いたずらっぽい目をしているが、からかっているわけではないらしい。
どこか犬っぽい上品さを備えた顔立ちと明るい性格は、あまり人に警戒されないようで、レオンはどこに行ってもたいてい受け入れられる。会社を経営するのにとても向いていると孝弘は感心するほどだ。
「だってさ、確かにきれいな人だけど、孝弘はずっと女の子とつき合ってたんでしょ。だから、あの人のどこを好きになったのかなあって思ってさ」
レオンから祐樹のことをあらためて訊かれるのは初めてで、ちょっと返答に困る。
「どこってべつに…。なんとなくいいなっていうか、気になってたっていうか…、気がついたらもう好きだったって感じで」
落ちるときはそんなものだ、と孝弘は祐樹を好きになって実感した。
過去の恋愛を振り返って、女の子とつき合うときはかわいいからとかやさしいからとか理由が比較的はっきりしていたと思う。留学後のつき合いは話しているうちに何となくいいなと思っているとそういう関係になっていたのがほとんどだ。
けれども祐樹の場合は、とにかくいつの間にか目が引き寄せられて、一緒にいるのが楽しくて笑顔が見たくて触れたくて。
そうだと自覚したときには、もう引き返せないくらい好きになっていた。
いくつかのターニングポイントは、でも、あった気がする。
「子供に飴、あげてたとこかな?」
「なにそれ?」
ぽん、と懐かしい光景を思い出した。
建前上、社会主義国の中国には物乞いは存在しない、はずだ。
しかし現実には農村で食い詰めた出稼ぎ労働者がうようよいて、その出稼ぎ労働者の子供たちや一人っ子政策のせいで捨てられた戸籍を持たない黒子(ヘイズ)と呼ばれる浮浪児などが、北京の路上にはたくさんいた。
人が多く集まるエリアにはそういった子供たちがうろうろしていて小銭をねだることがあった。
彼らは公安につかまるとどんな目に遭うかわからないと怯えているので、強引なひったくりなどはしないが財布を掏るくらいのことはあるから、相手にしないのがいちばんだった。
孝弘と一緒にバスを降りた祐樹が、たまたま小銭を手に持っていたとき、そういう子供が数人寄ってきた。
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