32 / 32

ろいどっくほすぴたる 6/6

「遼ちゃん、ここ、どこ?」  無言で手を引く俺に、ミオが不安げな声を出す。 「遼ちゃん、っ、」  部屋に入り、ドアを閉めてすぐさま強く抱きしめキスをした。 「や………遼ちゃん………ここ何? おうちじゃないよ?」 「だから、………こういうことするお店、だよ………」 「お店? えっちするお店? そんなのあるの?」 「今はもう、そういう質問はいいから」  ベッドに押し倒され驚きながら見上げるミオの服を、早々と脱がす。  生まれて初めての、ラブホテル。  目に入ったその看板と、小さく書かれた「ロイド大歓迎」の文字が、限界! 爆発寸前☆ だった俺の背中を押したのだ。  初めてのラブホが「ロイド」の「男」となんて、もうそんなことはどうでもヨイのだ。 「あ、遼ちゃ、………やだくすぐったいよぉ」  右手首に何度もキスをしてると躊躇うように身をよじらせる。  肌触りも反応も、その手首の跡すべてまるで同じで、じんわりと心が温かくなる。 「変わってないな、ミオ」 「ん………でも今日の遼ちゃんはちょっとこわい………」 「えっ? あ、ごめ………やっぱほら、久しぶり、だし」 「うん………いっぱいしてくれる?」 「約束だったもんな」  涙目で見つめるミオの頬を優しく撫でて。  伸ばされたミオの手に髪を優しく撫でられ。  互いの名前を何度も呼びながら、何度も長いキスをした。  ───そして約一時間後。 『いえいえっ、こちらこそ退院後の冊子をお渡ししただけで説明不足ですみませんでした』 「あ、今、確認しました、書いてありま、すね………」  俺はベッドにうなだれながら、検査医の吉岡さんに電話をしていた。  ………たった一度コトを済ませただけで、ミオがあっけなく失神してしまったのだ。  え? たった一発でなんで? そんな激しくした覚えは………まさか術後に問題が!? などとパニック状態になってしまい、恥もクソもなく慌てて検査院に電話してしまった、と。 『大丈夫ですよ。スリープモードに入ってるだけですから。  睡眠キーワードを言う他にも、こういった状態になることがありまして、』 「あ、はい、………そのパターン、過去にも一度、やっちゃってます………」 『そうですか。大丈夫です、同じ症状ですから。もうしばらく寝かせてあげて、いつも通り起こしてあげて下さい』 「はい………すみません」  そう。  言われてさっき渡された冊子を見てみれば、バッチリ「退院したその日は自宅でゆっくり休ませて、性交渉は控えて下さい」と書かれていたのだ(ご丁寧に太字)。 「あの、やっぱり頻繁にこういうことしてるとマズイっすよね。  てゆうか、本来だったらダメな日はロイドの方から教えてくれる、とか………」  これからは少し気をつけてやらないと、と思っていた矢先にコレ、である。 『そうですね。ミオ様は他の子よりもちょっぴり冒険心が強い子なのかもしれません。  でも大丈夫ですよ、非常事態が起こる前に彼の体の方がセーブしてくれるものですから』  冒険心が強い、………そういえば最初の注文の段階で「怖い物知らず」って書いてたっけな。 「ホントすみません、こんな恥ずかしいことまで相談してしまって」 『いえ。そちらのホテル様はうちの検査院に一番近いので、よくあることですし、  ………ここだけの話、わたくしとしてもそのお気持ちは十分わかります』  そっか………やっぱみんな考えることは同じなんだな(苦笑)。  電話を切り、グッタリしどけなく眠ってしまったミオと並ぶように横になる。  頬はまだ上気したままで額に汗が滲み、それが前髪までしっとりと濡らしている。涙で濡れた長いまつ毛も、まだ乾いていない状態だ。 「……………ミオ、」  手の甲でその汗を拭ってやりつつ、名前だけを呟いてみる。 「また負担かけさせちまったな………」  たまに甘えたワガママは言うけれど、辛いことは教えてくれない。  そして何より、俺を困らせることが一番の不安であること。  俺と出会った、あの最初の日から、ミオはミオのままでいてくれていること。  あんなに何度も、何度も埋め合わせるように抱き合わなきゃ、と焦っていたのに。  ムチャさせた後悔は残っているけれど、それは自分のそそっかしさに対するものだけで、不思議と満たされてるような気分だった。  こうやって隣にいて、声を聞いて、顔を見て、その温かさが感じられるだけで、今は十分で。  静かなホテルで聞くミオの寝息はとても心地いい。  明日からまた始まる、二人だけの時間を。  二人きりの大切な思い出が生まれることを、夢見て。 「………おやすみ、ミオ」  とりあえず宿泊にしといてよかったと思いつつ(汗)、ミオの瞼にキスをして、灯りを消して、俺も隣で同じように目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!