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ろいどっくほすぴたる 5/6

「………遼ちゃん、おはよう」  やがてゆっくりと目が開かれ、その黒目がちな瞳が俺を捉えると、ミオは優しく微笑んだ。  その笑顔にひとまずホッとして、力が抜けたような息が漏れる。 「遼ちゃん?」 「ん? あ、大丈夫か?」 「うん。………遼ちゃん、僕、手術、」 「あぁ、したんだったな。気分はどう?」 「大丈夫。でも………」  そう言うと、さっそくミオは目に涙を浮かべる。 「………淋しかった」 「…………………」 「手術は怖くなかったけど、遼ちゃんいないのがヤだった」 「うん、………うん、」  髪を撫で、指先でミオの涙を拭う。 「ごめんなミオ、俺が最初にあんなことしなきゃ、」 「なんでごめんなの? 遼ちゃんは謝るようなこと何もしてないよ?」  眼差しも表情も、声も口調も温かさも。  俺を気遣う言葉もまったく同じで、俺も泣きそうになる。 「遼ちゃん? どうしたの遼ちゃん?」 「や、なんでもな、いや、よかった………」 「遼ちゃん………」 「俺も、淋しかったよ、………ミオ」 「………遼ちゃんっ!」  起き上がり、ミオが俺に抱きついてくる。  俺の方も、ミオをしっかり抱きしめる。 「ミオ、」 「なに遼ちゃん?」 「家、帰ろっか」 「うん!」  手続きを済ませ、助手席にミオを乗せて車を走らせる。 「……………………」 「……………………」  あとは家に帰るだけ。わかってるんだけど。  車内という密室で二人きりになると、また違った緊張感に包まれる。  というか、違う意味でドキドキするというか、ムラムラするというか。  い、一週間近く何もなかった、って初めてだもんな………。  ミオはミオで前なんかまったく見ず、俺の横顔ばっかりじっと見つめてるし。  チラ、と見れば首を傾げるようにして口元を緩めてくるし。 ヤバイと思ってそのまま、また前を向き直す、の繰り返し。  いやいや、やっぱり簡単な退院祝いをして、風呂入って、そしてしかる後ゆっくり、と段階を踏んでだな、 「遼ちゃん、」 「っ、はいっ、な、なんすか?」  じっと見つめていたミオにふいに声をかけられ、さらにビクッとする。 「遼ちゃん、怒ってる?」 「は? や、怒ってないよ、なんで?」 「だって遼ちゃん、さっきからずっと、むずかしい顔してる………」  そう言ってミオは淋しげに目を伏せる。 「や、これは、その、」  頭の中がもうすでに悶々してるなんて、どう説明してやりゃいいのやら(汗)。 「………遼ちゃん、ごめんね?」 「へ? ………急になんだよ」 「あのね、僕、検査行くのすごく嫌がってたでしょ? だから遼ちゃんずっと困らせちゃってたよね、ごめんね遼ちゃん?」 「…………………」 「でもね、これからはね、ちゃんと検査頑張って受けるから」 「うん………いいよ、そんな済んだことは気にしてないし」  信号で停まり、ミオの頭をポンポンする。  それだけでまたミオはうれしそうに笑い、さらに俺の方をしっかりと見る。  とびっきりの、柔らかく甘い笑顔で。 「遼ちゃん、僕ね、今度から遼ちゃんの言う事、もっとちゃんと守るから。  だってね、僕ね、これからもずっと遼ちゃんと一緒にいたいもんv」 「っ、あぁ、はい。そうしてくれるとありがたい、っすね………」 「僕ね、………遼ちゃんのこと、大好きだからvv」 「わ、わかってるからっっ」 「ずっとずっとね、大好きだからvvv」 「っ、~~~~」  ───あぁもうっっ!  チクショウ、こんな狭い二人っきりの車内で可愛いこと言いやがって!!!  今すぐ抱きしめたい衝動をぐっと堪えつつ前に向き直した時、街中にある、ひとつの看板がふと目に入る。  …………………。 「ミ、ミオ、」 「なに遼ちゃん?」  思わず、ハンドルを握る手に力が入る。 「ちょ、ちょっと………寄り道しようか?」

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