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裁定者
グズグズに泣き叫ぶシェライラの姿は、誰が見ても被害者だった。
切れた頬、甲冑がへこんだ騎士、僕は羽化して16歳の人、僕自身になっていた。
一つだけ、神様に感謝することがある。
それは、16歳の僕の身体をデブにしなかった事だ。
それだけで、心が軽くなった。
どんなに最悪な状況だろうと、あれほど望んだ普通の体型を手に入れたんだから。
「さき!!!
大丈夫か?!」
王太子が駆け込んできた時には、執務室は既に酷い惨状だった。
書類は床やいたるところに巻き散らかされ、点々と血の跡があった。
僕の脇腹からの出血が、闘っている時に飛び散っていたようだ。
「レオハルト、さま」
出た声は掠れていた。
僕に近づこうとした王太子をその体で止めたのは、シェライラだった。
「近づいてはなりません!!
サキ殿は魔物です!!
狂った魔物なんです!!
僕をいきなり襲って、殺そうとしました!!」
泣き叫びながら、王太子に訴える姿は誰が見ても儚い美しい少年だった。
「私が止めに入らなければ、シェライラ様は命を落としていたと思います!!
どうか、サキ殿をせめて投獄してください!!
所詮は豚なんです!!
知性なんかあるわけがないんですよ!!」
騎士までがそう訴えた。
僕に勝ち目なんかあるわけないじゃないか。
ここでも、僕は…!!
「さき、その姿は?」
「僕のスキルが上がったので、成長したんです。
これが、この世界に来た本来の年齢です。」
断罪されて処刑されるなら、せめて僕の笑顔だけでも誰かが覚えていて欲しい。
「小さい頃は本当に可愛かったんですよ?
今はどうなんでしょう?
鏡を見てないので分かりませんが」
「さきは綺麗で可愛い
あの子ブタがこんなに綺麗に成長したか」
そう言って王太子が手を伸ばそうとしたところで、シェライラがそれを止める為か、脇腹を切ったナイフで僕を刺した。
こんな時にもスキルは発動するんだ。
痛覚耐性のおかげで、痛くは無かった。
ただ流れゆく血を止める術が無かった。
「さきー!!!!」
シェライラをなぎ倒して、倒れそうな僕を王太子が受け止めて抱きしめた。
「さき、さき!!
大丈夫だ、今治癒してやる!」
「僕を、信じて、くれるの?」
「当たり前だ!!
トルク、治癒魔法を!!!」
宰相のトルクが急いで治癒魔法をかけてくれた。
「さきちゃん、大丈夫だからね
すぐ痛くなくなるからね」
その言葉通り、傷口は塞がった。
脇腹から流れてる血も確認してそっちも治療してくれた。
「っふぅ、僕がやったんじゃない。
いきなりあいつらが来たんだ」
王太子に抱きしめられながら、声を振り絞って言った。
信用してくれるか分からなかったけど、王太子なら分かってもらえるんじゃないかって。
「鑑定士も反対派の貴族もすでに取り押さえてある
後は、シェライラとそれに加担したそこの騎士だけだ」
その言葉を聞いた二人は、後ずさるような動きをした。
「はーい、そこまでね
さきちゃんを襲って、自分が被害者になった後は、レオハルト様の伴侶にでもなるつもりだった?
でもさ、性格が最悪真っ黒な子をレオハルト様が選ぶわけないじゃんね。
そんなこともわかんないかなぁ」
「そんな、僕は何もしてません!!
そこのサキ殿がいきなり暴れたんです!!」
「そうです、シェライラ様を襲っているところに私が駆け付け、事なきを得たのです!!!」
トルクに訴える二人を、面白そうにみんなが見下ろしていた。
「獅子王レオハルト様のスキルは裁定者、つまり君たちの悪事は白日の下に晒されるわけだ」
トルクがさも面白そうに言った。
そう言ってる端から、この執務室で起きた事が再現されていた。
まるで映画かドラマを観るように。
「裁定者?」
「そうだ、お前がさきを抱いて執務室に入ってきた時から、その腹の中は分かっていた。」
それであんなに不愉快な顔をしていたのか。
ちょっと待てよ、もしかして、これって囮?
「アンタ、僕を囮にしたのか!!!」
王太子の胸倉を掴んだ。
「いや、ごめんごめん、だって私のさきが負けるはず無いって分かってたし
でも、刺されちゃうとは思っていなかった。
本当にごめん。」
「何がごめんだ!!
凄く、凄く傷ついた!」
そうだよ、イジメられてた時を思い出して、どれだけ辛かったか。
ボロボロと泣く自分が可哀そうで、自分で自分を抱きしめた。
「さき、本当にすまなかった
そんな風に泣かないでくれ」
「さきちゃん、レオハルト様はなんて酷い人でしょうね
私なら泣かせたり怖い思いをさせませんよ
こちらへおいでなさい」
そう言って差し出してきたトルクの手を取ろうと伸ばしかけて、止めた。
王太子はボクが子豚の時から好きだって言ってくれた。
確かに今回は酷いことをされた。
心が物凄く傷ついた。
でも…。
「さき、駄目だ
私のさき。
お願いだから、私を選んで」
「もう!!
最初から選んでるだろ!!
こんなひどい事されても、まだ、アンタの腕にいるだろ!!!」
異世界に流されて、環境の変化に順応しすぎちゃって、とうとう、僕は男を選んでしまったんだ。
「さき!」
子豚の時の様な口元にちゅうではなくて、唇にしっかりとキスをされた。
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