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黒い悪行

「さきちゃん、おトイレとかは大丈夫?   私がついて行ってあげるからね」 トルクはかなりショタコンなんだろうか? ないよ 〔ぷきゅ〕 と首を振った。 「えぇ~  もう、すぐに言ってくださいね」 ここでやっと気づく。 この世界で女性に会ったことが無かった。 恐ろしい事実に気づいてしまった気がする…。 どんなになよなよしてても、皆、男だった。 あのシェライラだってそうだ。 と言う事は、異世界の中でも結構ハードな薔薇族的な世界!! そして何となく、それに染まってきている自分にも驚いた。 嫌悪感が無い。 最初にあった、男だからとかそう言ったモラル的な部分への嫌悪感が全く無くなっていた。 毒されてるなとは思いつつも、この世界で生きなきゃいけないなら、そうやって順応していかないとキツイよな、と思ったりもした。 執務室で微睡むことが増えたけど、たまに会議とかで一人にされることもある。 やっぱり豚を会議に連れて行くのは憚れたか。 その方が僕にとっては良いんだけどね。 今日も、会議でトルクも王太子もいない時にシェライラが訪れた。 なんで? ここは護衛騎士がいて、勝手に執務室には入れないはずなのに。 「サキ殿、こんにちは。  ねぇ、教えて、レオハルト様をどうやって誑し込んだの?  豚のくせに!」 え? 〔ぷ?〕 「悪い魔物として、討伐されれば良かったのにねぇ  せっかく鑑定士に言い含めて、君を悪い魔物として告発するように言ったのに  なんでうまくいかなかったんだろう。  君がいなけりゃ、僕がレオハルト様の伴侶候補として決定していたのに」 シェライラの言葉はまるで剃刀のように、僕を切りつけた。 実際持っていたナイフで、脇腹を切られて投げられた。 良い人だと思ったのに。 「ねぇ、豚、死んでよ」 執務室の護衛騎士が入って来て、僕へ攻撃をしようとした。 物理的な攻撃は躱すしかないけど、魔法陣は割ることができた。 「早く、この豚殺しちゃって  いくらでも言い訳なんか出来るんだから」 良い人だと思ったのに。 イジメられていた時にも、こんな人はいた。 『いい人ぶって、アイツがなんか相談してくるのを、皆に回してるの気づいてないんだよな』 『キモデブの悩みなんて、何食べるかしかないんじゃねーの?』 『あれでもダイエットしようとしてるらしーぜ』 『無理だろ、ゲラゲラ』 『それなら、もっとたくさん食わせてやろうぜ』 あの頃、親切ぶって無理矢理お菓子を食べさせられたりした。 そしてその代金を請求されたり、本当につらかった。 攻撃魔法とか格闘スキルは僕にないけど、前世でダイエットのために色々やったから、逃げることは出来る。 シェライラの攻撃魔法も砕いた。 何回砕いただろう?さすがに二人がかりの攻撃に疲れが出て来た。 脇腹を切られたのもキツい。 スキルのおかげで、痛みをそれ程感じないけど、血が止まらないところを見ると、結構深いんじゃないかな。 これだけ大きな音が出てるのに、誰も気づかないのか? 「ざんね~ん、ここは魔法で結界を張ってるから外には漏れないんだよ  レオハルト様も会議で足止めだしね。」 ーレベルが30になりました。ー ー痛覚耐性、衝撃耐性がMAXになりました。新たに、苦痛耐性、心理耐性を獲得ー ー特殊スキル変態が羽化へスキルアップしました。ー 闘ってる間にレベルアップはしてるけど、嫌なことに対する耐性がついてるだけだった。 もう少し、攻撃に特化した何かは取得できないんだろうか。 まぁ、豚じゃ何も持てないか。 ん?人化すれば持てる?もしかして人化して戦うと違うスキルが持てるんじゃないだろうか。 特殊スキル羽化を使ってみた。 光の玉が体の周りを包むと体が変化してるのが分かった。 変態よりいい。 お仕置きよ的な変身シーンはいかがなものかと思う。 「ヒッ!  化け物!!」 シェライラが僕の人化を見て、化け物と叫んだ。 僕にしたら、そこまで腹黒になれる方が化け物だよ。 羽化は言葉通り、脱ぎ捨てた感じで一気に成長した。 16歳の僕だ。 どこかについていた脂肪を防具に回したみたいに、しっかり体を覆った。 魔法陣をたたき割りながら、騎士と間合いを詰める。 身体が軽く、動きやすい。 ー羽化による人化で格闘スキルを取得ー 武器は無いけど、拳を騎士のお腹に叩き込む。 甲冑がボコんとへこんだ。 その衝撃は凄かったらしく、騎士はゲフォっと血を吐いた。 ー羽化による人化で怒りの鉄槌を取得ー 腕を振るとその風圧でシェライラの頬が切れた。 ー羽化による人化で風牙を取得ー ここまでやって、漸く騎士は膝をついた。 「シェライラ様、お逃げください  私では、この者に勝てません!!  お早く!!」 「ひっ、やだ、化け物め、来るな、来るなよ」 シェライラは腰を抜かしていた。 後ずさりするだけで、逃げることも出来なかった。 その姿を見て、僕は闘うのを止めた。 するとその瞬間、騎士が他の護衛を呼ぶように叫んだ。 「誰か!!  誰か来てくれ、サキ殿が暴れた!!!  シェライラ様が襲われた!!!  取り押さえてくれ!!!」 え!! まさか、そんな! 襲われたのは僕だ!! どかどかと執務室に大勢の騎士たちが入って来た。 「サキ殿を取り押さえてくれ!!  私もやられた、強すぎる!!」 「あ、あ、助けて!!  レオハルト様、助けて!!!  僕は何にもしてないのに!!」 泣き叫んで、暴れるシェライラを鎮静魔法で落ち着かせ、僕は取り押さえられた。

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