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勇者候補の本質
「勇者召喚されて、自分のスキルを見てみたら、
何も無かったんですよ。
ただ、称号が勇者候補ってだけで。」
有末が言ったことは、山際がやはりスキルが無かった事と同じ何だろうか?
山際も最初からスキルが無かった?
「スキルは、鍛錬すれば取得出来るものがたくさんありますよ。」
「そうなんですか、なら頑張ってみようと思います」
有末は笑った。
この笑顔に覚えがある。
獲物を見つけた目だ。
僕は思わず、トルクの裾に纏わりつくように擦り寄っていた。
「さきちゃん、どうちましたかぁ?」
トルク様、怖い。
〔ぷきゅ、ぷきゅぅ。〕
「よしよし、眠くなってしまいましたか?」
うん、疲れた。
〔ぷぅ、ぷひ。〕
トルクは僕を抱き上げて、凄く優しい顔で撫でてくれた。
すると、人の体温の丁度よさで眠気が一気に来てしまった。
レオハルト以外に抱っこされてしまっているけど、トルクなら安心だし。
「トルク様、豚をどこかで寝かせてはいかがですか?」
「この子は大事な子なので、抱っこしたままで」
うとうとする中で二人の会話を聞いていた。
「タイガ殿は鍛錬がしたいと言う事でよろしいですか?」
「魔法が使えるようになりたいです。
私の世界では、魔法が無かったので、
魔法自体が夢の様ですよ」
「魔法ですと、魔法省からの紹介で誰か派遣してもらいましょう。
同じ時期に候補がいるので、一緒に鍛錬が出来ますよ」
「学校、みたいなものがあるんですか?」
「グループと言ったところですね」
「グループか、同じ候補が集まるなら、話も合うかな?」
楽しそうに笑う有末の声を最後に聞いたあと、僕は眠りに落ちてしまった。
ぐっ、ふぅ!!
誰かのうめき声がする。
ハッと気づいた。
しまった!あのまま寝ちゃってたんだ!
急いで起きようとして、誰かの腕が絡みついていて、身動きがイマイチ出来ない。
顔だけを回して、腕の正体を見ようとしたら、床にうめいているトルクがいた。
トルク!!!
〔ぷっきゅぅう!!!〕
「お、豚ぁ、起きたか。」
この腕の正体が有末だと分かった。
「さき、ちゃん!
逃げて!」
苦しむ息の下で、トルクが叫んだ。
ダメ!!
〔ぷきゅ!〕
「さぁ、従魔契約をしてやるよ。
勇者の従魔になれるんだ、感謝しろよ、豚」
「何をするんです!!」
「迷宮に行くのに、この豚に犠牲になってもらうんですよ。
尊い犠牲です。
神様も喜びますよ。
国の至宝まで差し出して、勇者の為に貢献したって」
「陛下が、国が許しません!!」
「俺が許すから良いんですよ、宰相様
神に召喚された勇者ですからねぇ」
既に従魔を嬲り殺してる有末には、何てことは無いんだろう。
人を痛めつける事や暴力を振るう事を抑えられないみたいに、抱え上げて僕のお腹を殴ろうとした。
その時逃れるために、無防備だった手首に思いっきり噛みついて、その肉を引きちぎった。
豚は人だってミンチにして食べてしまうほど凶暴なんだ!
舐めんな!
「ぎゃぁっぁあ!!!」
血がどくどくと流れだしていた。
細くともどっかの血管が切れたみたいだ。
相手が怯んだ隙に、トルクの元へ走った。
「このクソ豚!」
「さき、ちゃん、
ごめんね、
大丈夫?」
大丈夫!!
〔ぷきゅ!!〕
「豚を国王の伴侶から引きずり降ろしたいって言うから簡単かと思ったのになぁ
転生者だって?
人化して見ろよ、なぁ、田淵 〜咲季 」
有末がニヤッと笑った。
な!!
僕が咲季だって知ってた?
なんで?
転生って事も、伴侶って事も!!
この事実を知ってるのは、先々代の国王のお爺様と、お父様お母様、そしてレオハルトにここにいるトルク。
あと、魔法省…チェルシーだ。
シェライラは魔法省の鑑定士と組んでた。
チェルシーは?
騎士や魔法省にまだ仲間が残っている可能性だってあったはずだ。
「デブは転生しても豚だったなぁ。
なぁ、男に突っ込まれるのって良いのか?
王様の隣に立って腰を抱かれてるのを見た時、ビックリしたぜぇ
デブがどういうわけか、痩せて随分可愛くなってたなぁ。
お前、デブのくせに女みたいな顔してっから、キモかったしな。
でもな、勝手に死にやがって、勝手に生きようと思ってんじゃねぇよ
お前は、俺の豚なんだよ!!
俺がお前を痛めつけるんだよ!
ヒ―ヒー泣いてれば良いものを!
山際ともこっちで会って、お前を蹴り出して交差点でダンプに轢かせたってな
その時に召喚されたってのも聞いたから、取り敢えず、ぶっ殺しといたわ」
こいつ狂ってる!
嗅覚を使って、有末の中身を見る。
種族 人〔成体〕
称号 勇者候補〔殺戮者〕
Lv. 25
HP 9500
MP 4500
スキル 惨殺 殺人鬼
特殊スキル 狂戦士
なんで、こんな奴にまだ勇者候補がついてるんだよ。
ここで異質な事に気づいた。
勇者候補って元々犯罪者なんじゃないだろうか?
悔い改めない人に対する罪状がついてるんじゃないだろうか。
迷宮は牢獄。
脱獄しても、全てを失って寿命も取られる。
行かなくても、全てを奪われて、まともな暮らしは出来ない。
そして中には獄中死を迎える者もいる。
神様はここに重犯罪者を召喚しては罰を与えてたの?
異様なほどの人数に勇者候補がついてるのも頷ける。
王宮は、勇者候補と言う犯罪者を必ず見つけられるし、大した意味もなく牢獄へ入れられる。
ドロップアウトしても、奪うものが寿命だったり、スキルだったりなら逃げ出すと言うほどのことも無いだろうし、元々が犯罪者ならその本質はどこか自己満足で自己顕示欲も強いだろう。
良く出来たシステムだ。
生まれながらに候補になってる人は転生者で、その罪を償わせるための称号。
転生者と言う事を隠して、勇者になろうとするだろう。
地位も名誉もお金だって手に入ると思うだろうから。
生きるも死ぬも自己責任だ。
じゃぁ、僕は?
巻き込まれて、何があるか分からないから、魔獣に転生って言われた。
あぁ、神様は僕を守ってくれてたのか。
だから人じゃなかったんだ。
僕が豚だった意味をようやく理解できた気がした。
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