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トルクのスキル

有末は流れ出す血を止められず、手首を押さえたまま、 「えーっと、もういいや、豚  死んで。」 有末は魔法陣を作り出した。 大きく広がっていく魔法陣を僕は叩き割った。 「チッ!  豚のくせに!!」 うるさい!! 〔ぶぎゅう!!〕 「さきちゃん!陛下が来ます、下がって!」 トルクが有末と間合いを詰めている時に叫んだ。 レオハルトが来る? ガッシャーーン!!! 庭園側に面していた窓がすごい風で割れ、黄金の獅子に獣化したレオハルトが飛び込んできた。 ベッドで獣化した時の遥か数倍大きかった。 マジか! 〔ぷぅ!〕 「さき!無事か!  トルク、良くやった!」 「陛下!  お気をつけ下さい!」 そう言えばトルクはなんで床で苦しんでいたんだ? アイツのスキルは惨殺と殺人鬼、狂戦士だけど。 他に何かあるんだろうか? 「陛下、奴は変わった動きの格闘をします!」 「分かった!」 グルグルと唸りを上げながら、有末と向き合うレオハルトの背中に僕は飛び乗り、体術の正体を教えた。 授業の一貫で必須科目だった、柔道だ。 トルクが襟を掴まれて投げられたなら、床で呻いていたのも納得できる。 ライオンの背中に乗る子豚は、漫画のようだ。 自分でも笑えた。 でも今は有末の息の根を止める勢いでやらないと不味い。 「さき!どうする気だ!?」 言葉が豚の状態では無理だから人化する。 「豚は豚のまま死ねよ!  ムカつく!  お前、俺のものだったのに!」 「お前のオモチャじゃない!  僕はお前が大っ嫌いだし、憎いくらいだ!  お前のせいでイジメられてたんだ!」 僕の言葉を聞いた有末は、は?と言う顔をした。 「イジメって、何言ってんの?  遊んだだけじゃん?  ただ、お前に選択する権利がなかっただけで、皆で楽しく遊んだじゃん」 この言葉に嘘が全く無いような、それほどの驚きを含んだ言葉を吐いた。 怖い、何なんだ、コイツは。 何もかもが噛み合わない。 「本気で言ってるの?」 「本気って、お前も楽しかっただろ?  みんな、笑ってたじゃん」 狂ってる! 異常だよ! 「さき、コイツは狂ってる  暴力が遊びだ」 うん、おかしいよ。 「有末は、お母さんやお父さんにも、そうやって遊んでもらったの?」 「そうだ。  最近は俺が遊んでやってるけどな!」 あぁ、可哀想に。 虐待されて、それを遊びだと言い聞かせられて、壊れたのか。 「僕は、初めて有末が話しかけてくれた時、すごく嬉しかったよ。  誰も知らない中で、怖かったから。  あの優しさも、本当だと思ってるから。」 ースキル心理耐性がMAXになり、意思疎通及び解読を取得しましたー 「有末、僕ね  君を今やっと分かったか気がするよ。  自分を守る事が、それだったんだね。  でもね、もう沢山の過ちを犯してるから、僕は君を見過ごせないんだ。  だから、迷宮へ行って欲しいんだ。」 迷宮は多分、牢獄であり刑期であり、母体回帰の意味があるんだ。 「行くさ!  だけどな、お前が先頭を行くならな!  俺のために道を作れよ」 有末が憐れに思えた。 小さい子が嫌だと全身で訴えている姿に見えた。 怖がっている。 怖くて怖くて仕方ないんだ。 「有末は怖いんだね」 僕が有末の気を引いて、言葉をかけ、戦いの手を止めさせてる間に、トルクの魔法陣が完成していた。 「神の裁き(ジャッジ)!!」 「ぎゃあああああー!!!」 眩い光に包まれて、目が開けていられない。 何が起きているのか、有末の叫び声だけが響いた。 「さき、直接見るな  神の光で灼かれる」 「光が強すぎるだけで、何もしてない人は裁きを受けませんから!  さきちゃんは灼かれませんよ  陛下は分かりませんけどね。」 トルクが笑いながら言うと、ライオンのレオハルトはその尻尾で笑いを止めるようにその頬辺りを掠めた。 スッと赤い跡が出た。 当たっていなかったのに。 「トルク、コイツはどうなる?」 「神の采配はどう判断するか、私には分かりません。  ただ、今までの会話から、肉体が残ればまだマシかと。」 「トルク様、有末は罪を灼かれた後、肉体が残ればと言うのは、死を意味するんですか?」 お?と言う顔をして、トルクが答えてくれた。 「いいえ、肉体すら残らなくても、この世界に来た以上、召喚者の体にも核が出来ます。  灼かれても肉体が残れば、そこから普通の牢獄で裁判を受けて処罰が決まります。  ただ、灼かれた分を刑期として差し引きも出来ないんですけどね。  あとはこの世界の法で裁かれます。」 トルクのスキルは魂の本質を裁くみたいだった。

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