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有末の核
光が小さくなって来た。
小さく小さく、まるで卵のように小さくなった。
「どうやら、肉体は残らなかったようですね」
有末の罪は大きは、彼だけのものでは無かったのに。
小さく体を丸めて泣く有末を見た気がした。
カツン
小さな赤い石が落ちた。
トルクはその石を拾い上げると、僕へ見せてくれた。
「この核は、どうするんですか?」
「神殿へ捧げられ、この中にある魔力を使い、水を浄化したり、作物の育ちを良くしたりと、貢献する事になります。
そして、枯渇した時に土へと還ります。」
「そうか…」
僕はレオハルトの背中にしがみついて、涙を隠した。
「さき、何を見て涙を流す?」
人に戻っても良いのに、戻らないまま僕を乗せて、泣いてる理由を聞かれた。
「有末は、親から同じ事をされた子だったんだ。
だから、暴力が遊びだと本気で思っていた。
いや、思い込む事でしか、自分を守れなかったんだ。
でも、それを理由には出来ない。
辛くても違う道はあったはずだから。」
こんなスキル、無ければよかった。
もう何対して涙が出るのか、何を怒っているのか自分でも分からなくなっていた。
神様、僕はどうすれば良かったんですか?
レオハルトが泣き止めない僕のために、半獣化して抱き上げてくれた。
柔らかな毛並みと甘く香る体臭に、体を擦り寄せて抱きついた。
「さきちゃん、今日は抱っこ出来てよかった。
いつでも、抱っこしてあげますからね
私も獣化したら気に入ってくださいね」
あ、そうだ。
僕、トルクに抱っこされて寝ちゃったんだ。
抱かれている指に力が入るのが分かった。
ヤバイな、これ。
そっとレオハルトを見上げると、ジロっと睨まれた。
グチャグチャな執務室をトルクに任せて、僕はレオハルトに半強制的に寝室へと拉致られた。
「さき、何故トルクに抱かれた?」
「言い方!
有末の存在が怖くて、トルク様の裾にしがみついちゃったんです。
抱っこされたらあったかくて、つい、ウトウトと寝ちゃいました。
ごめんなさい」
覆い被さるレオハルトの目を見て答えた。
「分かった。
護衛騎士からも、報告は受けていた。
連絡が来た時は、流石に早すぎると思った。
奴がこれ程早く、行動に移すとは思ってもいなかったからな。
しかも、あのトルクが床に倒されたと聞いた時は、間に合わないかと思ったさ。」
僕はレオハルトの首に腕を回して、引き寄せた。
レオハルトを抱きしめるようにして、キスをした。
「ん、」
軽く触れるようにしてから、薄く開いた口の中の舌を追った。
「さ、き」
レオハルトがこぼす声が愛しくて、更に深くキスをした。
唇を甘く噛んでは舐め、また舌先を上顎の歯列に当てて、舐めるとレオハルトの雄は、硬く立ち上がった。
「レオ、抱いて」
「さき、泣くな、笑え
お前が負う業ではない」
有末を憂いて流した涙は、多分意味のないものだ。
「奴は私の恋敵だったようだな」
「はっ?
何言ってんの?」
涙も甘い雰囲気も一気に吹っ飛ぶ。
「さき、気づいていなかったか…
チッ、言わなきゃよかったな」
「え、なに、どゆこと?!」
いつの間にか半裸にされた体を、レオハルトから逃れて詰め寄った。
「奴は、お前を好きで好きすぎて、暴力と言う手段でしか向き合えなかったのであろう。
お前がいなくなった事を何より、苛立ちで訴えていた。
そして、私に抱かれるお前を想像して、壊したかったのだろう。」
「いや、いや、無いでしょ。」
「そうだ、奴は手段を間違えたのだ。
ただ一言、好きだとお前に告げていたら、きっと未来は変わっていた。」
「無いよ、無い」
「一つ一つの言葉が、好きな人を取られた、取られたく無いと言う執着に聞こえたがな。」
「だって、オモチャ扱いだよ…」
ふぅと溜息のように、レオハルトが息を吐いた。
「そのまま、余所見をしないで
私の腕の中にいてくれ」
「僕はレオ意外に、こんな事するわけないじゃ無いか。
大体、僕の好きを侮ってもらったらこまるんだけど!!」
「はっはっは!
そうだ、さきはそれで良い!
私の腕で、泣いて怒って、笑え」
もう、と一つ息を吐いて、レオハルトと再びキスをした。
レオハルトの言葉を考えた。
あの言葉、執着、暴力が告白だったのかもしれないが、僕の心は1ミリも動かない。
愛してるのはレオハルトだけだし、可哀想にと同情をしても愛情は持てない。
だから有末、やっと僕から離れられたんだ、と。
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