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僕の立場と、レオの立場

この人がアサルト、なんだ。 「視察に行きたいとか、我儘も程々に。  こんな子供じみた事で、周りを振り回すとか、黙って王宮の奥で飼い殺しされてればいいのですよ。  ねぇ、転生者様」 僕はこの人に何か言うだけの実績も、理由にするだけの後ろ盾もなかった。 「キリアス、却下だ!」 「アサ、ルト様、すみません  少しでも世界を知りたかったので、キリアス様には無理を申してしまいました。」 「えぇ、そうですね。  勇者候補が選定を通らないのはいくらでもありますが、貴方様のせいで通らないなどと言う事が、二人もとは。  良い加減になさいませ。  仮の伴侶はこれだから…」 ここで初めてキリアスが態とここへ連れてきて、アサルトの不満や、非難の言葉を直接聞かせたかったのだと、理解した。 ニヤニヤ笑う騎士団が、僕を嘲笑った。 「豚は豚らしく、森へお帰りなさい。」 最後のトドメを刺された一言だった。 「さぁ、どうします?さき様?」 キリアスは訪ねて来た。 「ありがとうございます。   では、僕は去ります。  みなさんが、幸せに過ごせるように祈っております。」 「ははは!  豚如きに心配されるとはな!  大丈夫だ、レオハルト様は私の伴侶だ!!  早く出て行け!豚め!」 嘲笑う声を背中に聞きながら、王宮から飛び出した。 人化していたら目立つから、子豚へと変わると、とにかく走った。 体が軽いから、いくらでも走れた。 山間を走り抜ける事も、河を泳ぐ事も、山間を跳ぶ事も出来た。 一昼夜走り抜けた。 誰の目も気にしないで走った。 時折、水を飲んで、息を整えて走った。 ねぇ、神様、僕は勝手に守られたなんて思ったけど、本当に放置されただけだったんだな。 もっと自分に力をつけて、戦えるようになって、誰も来ない山奥で暮らそう。 そう目標を立てたら、少しだけ落ち着いた。 「どう言う事だ!?」 「さき様は、ここに居たくないと森へ帰ると我儘を言ったので、諌めたんですが、飛び出していかれてしまいました。」 護衛に付けていたキリアスがそう告げた。 「本当に、だな?」 「え、えぇ  嘘はついていません。」 「レオハルト様、うちの部下を虐めないでください。  さき様は、こんな所は嫌だと出て行きましたよ」 「そうか、アサルト  こちらへ来てくれ」 「はい!  喜んで」 アサルトが近づくと、レオハルトはその後頭部を抱え、キスを落としそうなくらい近づくと、一言、全てが冷えるような声音で、死ね、とつげた。 「な!  レオハルト様、私をあんなに愛して下さったではないですか!?」 「戦いに熱くなった血を、冷ますために借りただけだ。  その証拠に、この城で抱いた事はない。  私が裁定者という事も忘れたか?  そして、騎士団も、更迭する。」 「レオハルト様、更迭されては、城を守る者がおりません!」 「私が守りだ。  お前は必要ない。  まして、さきを追い出すように仕向けたお前を信用できないしな。  騎士とは高潔であれ、と教えがあったはずだが。」 「ぐっ、それは。」 「さきちゃんを連れ戻せるなら、許す事もまあ、無理だな。  もう、陛下への信頼も愛情も切れてるだろうしね。」 トルクが追い打ちをかけるように、レオハルトへの不満を口にした。 「トルク、貴様どういうつもりだ?」 「私は、陛下に最初から言っておりましたよね  さきちゃんを泣かせるなら、本気で取りに行くと。」 「さきは私のものだ。」 「いえ、さきちゃんの気持ちも考えられずに、こんなクソと出来てたアンタは相応しくない!」 「さきとは、コイツと切れてからの事だ!」 「じゃあ、なんで未だに、コイツがアンタの真の伴侶とか名乗ってんですか!」 「そ、れは」 「ヤってたんですよね?」 「ヤりました!」 トルクのスキルを出されたら終わると思ったのか、アサルトは即答した。 「黙れ!!」 「ねえ、バカですよね?  あれだけ、さきちゃんが守ったアンタから、裏切られる気持ちを考えたことありますか?  酷い道具を使って責め立てて、それでもアンタを慕うあの子の気持ち、考えてますか?」 トルクは苛立ちをそのまま、レオハルトにぶつけた。 「クソ!  私、辞職させて戴きます。  この国にいる義理も、理由も無くなりました。  さきちゃんを、私の伴侶に迎えて幸せに暮らしますから、アンタはそこのと上手くやってくれ!  ただし、追手を出したら、本気で敵国に行きますからね?」 「私も行く!」 「知りませんよ、アンタはもう、地の底まで信頼が堕ちてますからね。」 トルクが獣化して、この国を去ったのはその日のうちに敵国までしれわたったのだった。 白銀の白豹が、森へ向かって駆け抜けたのが、さきがいなくなった翌日の事だった。

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