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白豹

森へついて二日が経った。 まだ、たった二日だ。 たくさんの木の実や果物が、なぜかすぐ見つかった。 そう言えば、初めて森で目覚めた日も、美味しい実があったっけ。 「ふふ、すごく美味しい。  レオはちゃんと、アサルト様とうまくやってるかな?  僕が浮気相手とか、笑っちゃう  本命じゃなかったなんてさ。  即位の時に伴侶の誓いしたんだけどなぁ  負けちゃったよ。」    声に出してみると、不思議と整理がついた。 先にお付き合いしてる人がいたのに、知らずに僕が本命とか思ってたから、アサルト様には悪いことしちゃったなぁ。 神様、勝手に頼って、勝手に怒ってごめんなさい。 これも運命だ。 いつか、僕が先で僕だけを見てくれる人がいたらいいなぁ。 うん、僕が悩んでも、何も変わらない。 愛された事を思い出にしよう、そして、明日は別な国に行こう。  人に紛れて生きていたら、きっと余計な事は考えなくて済むさ、と言い聞かせた。  赤ちゃんがいたら、違ったかなぁ。 称号も貰ったのに。 ん、そうだ、称号! 種族 特殊属豚科人〔成体〕 称号 獅子王の伴侶    世界を穿つ者    王母    比翼連理  Lv.  102 HP  15000 MP  29000 スキル 暴食 愛玩 蹄の渾身一撃 痛覚耐性 衝撃耐性 水耐性 嗅覚 言語理解 苦痛耐性、心理耐性 格闘 怒りの鉄槌 風牙 愛を貫く者〔愛に殉ずる者〕意思疎通 解読 特殊スキル 羽化 ゆびきりげんまん 擬態 まだある。 擬態? こんなスキル聞いてないなぁ。 いつもなら、アナウンスされるのに。 擬態って事は、どんな姿にもなれるって事かな? じゃあ、狼とかどうだろう? いつもの人化とは違って皮一枚被ったような感じだった。 うーん、鏡ないけど豚が狼の着ぐるみ着たみたいな感触だ。 でも皆んな獣人だから、匂いでバレちゃうかな? 人化した時に人化で取れたスキルがあるように、擬態すれば擬態したスキルが取れるのだろうか?と。 とにかく、狼の動きを練習してみた。 残念ながら、何も起きなかった。 着ぐるみを脱ぐ様に擬態を解いた。 うん、なんか食べよう。 森の実を感謝して、また食べた。 あ、太っちゃう。 うとうとと微睡んで、最初の時の様に木にもたれ、足を投げ出して座り込んで寝ていた。 だってこの姿勢が楽なんだもん。 本当なら仰向けになって寝たいけど、それは難しいから諦めた結果がこれだったんだ。 今は疲れた頭と心を休ませる為に、眠ろうと決めた。 あったかい。 ふわふわした、上質なホカペのカバーみたい。 お母さんから、おこたやホカペで寝ると風邪をひくってよく言われたなぁ。 起きた時、びっしょり汗かいてたりしてさ。 揺れも気持ちいい。 ん、揺れ? え!? ハッとして、目が覚めた。 ふかふかの白銀の毛皮に埋もれる様に包まれていた。 いい匂いだ。 「起きた?さきちゃん」 「えー、この声ってトルク様?」 「そうだよ。   私ね、あの国の宰相も辞めて、さきちゃんを幸せにする為に追いかけてきたんだ。」 「トルク様!ダメですよ!  僕はどこか遠い国で、人か魔獣として生きて行きますから、帰ってレオハルトを助けてあげて下さい!」 「もう、無理  さきちゃんを泣かせたから。」 「そんな、大した事ないですよ、豚なんだし。  ね?トルク様、帰ってあげて」 「私はさきちゃんを幸せにする以外、考えてません!  もう貴族でもない私は、いらない?」 ずるい。 「むー、そんな訳ないでしょ!」 「なら良いじゃない」 「どこに向かってるんですか?」 「二人だけで暮らせるとこ」 「なんで、なんで?  僕なんか」 「さきちゃんを好きだからさ」 涙が出た。 本当は一人で心細かったから。 「うっ、えっ、えっ」 トルクは立ち止まると僕を背中から下ろして、人化して抱きしめてくれた。 「涙を止めるのが、私の役目になると良いな」 「トルク様、」 「トルク、ね  もう、様はいらない。  さきちゃんと同じただの人だからね」 「と、るく?」 鼻をズビズビしながら呼んでみた。 「はい」 レオハルトと同じくらい高い背を屈めて、僕の頬にキスをした。

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