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咲季の目覚め
「な、これだ。
お前ら、コイツにどんな教育したらこうなるの?」
脳筋バカのレオハルトにまで言われたら終わりな気がしたが、トルクは取り敢えず黙ったまま、どうでもいい、と思っていた。
「お兄様たち、私を助けてください!」
「うーん、トア、もう、無理だよ。
お前に何度も反省する機会を与えていたけど、本当の意味での助けになるかもしれなかった咲季ちゃんを、お前の虚言で取り返しのつかないことになったんだ。」
「虚言ではないです!
トルクお兄様が豚などと番うなんて!」
「豚、と言ったか?
貴様」
レオハルトがトアを睨みつけた。
自分の遊びは棚に上げておいて、咲季を豚と呼ぶのは許さない程度には、執着も愛情もあった。
「トア、控えなさい。
お前はもう、大人だ。
それなら身の振り方、謝罪の仕方、償い方を自分で決めても良いのではないか?
もう、親兄弟がお前の代わりに頭を下げる必要はないだろ?」
「父上!私は、悪くない」
トルクは怒りともつかない息を吐いて、最後に一言告げた。
「ジャッジメントを使うという事は、お前の魂は終わりを告げるかもしれない
それでも構わないなら、それもお前にとっては助けになるのだろ。」
レオハルトはニヤニヤしていた。
実際に見て来たから、ジャッジメントの意味を知っていた。
だが、トアはそのスキルを見た事が無い。
だから、きっとそれ程のスキルなのだろうから、取り敢えず謝れば何とかなると思ったのだ。
「ごめんなさい、私が、悪かったのです。」
「はっはっはー!!
これが、ジャッジメントを持つ男の弟とはな!」
「それを言うなら貴方の甥ですよ、レオハルト
裁定者の甥っ子ですよ、良かったですね。」
お互いでなすりつけ合うように、バカにし合った。
その意味も分からないトアだけがポカンとし、他の者達は終わったな、と感じていた。
「な、何ですか?
私はちゃんと謝罪しましたよ!」
「バカ者が!
謝罪すべきは咲季に対してた!
咲季は神の愛し子なのだ、到底お前の表面だけの謝罪が通るわけなどないのだ、弁えろ!
豚だのはまだいい、虚言に虚言を重ね、咲季の心を壊したのだ、ジャッジメントを使えば確実に神自ら罰を与えてくださるぞ、良かったな」
トルクの苛立ちは頂点に達していた。
黒目黒髪が神の子である事は、この世界の常識で、今更知らなかったなどの言い訳が通るはずが無かった。
「お前が家族だから、ここまで皆んなが悩んでいるにも関わらず、それすらも汲み取れないとは。」
家族として甘すぎたのだと、この責任はどう取れば良いのかと思案していた。
「とにかく、トアはこの国から出した者である。
裁くに至る罪状は国ではなく、世界である事からジャッジメントを奮わざるおえない、と言うのが想定であろうな。」
「父上、ジャッジメントとは、どのような罪なのですか?」
やっと少しだけ話を聞くようになったトアが、己に降りかかるかもしれない裁きを聞いた。
「魂の罪を灼きつくす。
それが足りなければ次は肉体を、そして残るのは核のみ。
国ではなく、世界の裁きが必要となった場合だからな。
大抵は肉体も残らない」
それを聞いたトアはここでやっと、青褪めた。
「なんでだよ、なんで、ちょっとだけ吐いた嘘じゃん、私に言われて信じたあの豚が悪いんじゃないか、豚の癖に、お兄様を取るから悪いんだ。
私に優しくしてくれない、トルクお兄様が悪いんだ!!」
犯罪者あるあるだ。
逆恨みと自己都合による記憶改竄だった。
「豚に謝ればいいんだろ、謝れば!
どこにいるんだよ、あの豚は!」
「まだ言うか、トア。」
ニヤニヤとレオハルトは鑑賞していた。
力の強い一族が、その内部から崩壊しようとしていたからだ。
レオハルトにとって既に敵に回っているトルクの国は、この王族の強さが一番の脅威だった。
ならば、トアを取り込めばいいと思われたが、トアは獅子身中の虫にしかなり得ないと判断したからだった。
寸劇を観ているようだった。
そして、寸劇から昼メロへと展開をする知らせがもたらされた。
「咲季様が目覚められました!」
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