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拉致

マナイが走ってその後に僕がつづいた。 「咲季ちゃん、急いで!」 身体強化を掛けてもイマイチで、とにかく走った。 何人かの男たちの追いかけて来る声も聞こえた。 「人数を見誤ったか!」 「マナイ兄様!隠れましょう!」 「ダメだ、獣化したら匂いで追われる!」 「では、戦いましょう!」 「咲季ちゃん、私が獣化したら後ろに隠れてるんだよ!!」 そう叫ぶと、マナイは大きな虎へと変貌した。 いや、これサーベルタイガーだよ!! 王族が最強と言うのが分かる気がする。 どう見ても、冒険者崩れみたいな奴らが、なんで僕たちを襲うんだろう? 「咲季ちゃん!咲季!逃げろ!  止まるな!走れ!」 マナイの足手まといになる訳にはいかない。 この路地を出て助けを求めないと! 走り出した先の角を曲がって、誰か助けてと言おうとした所で、出会い頭にぶつかった人がいた。 「す、みません、誰か人を呼んで、」 相手をよく見ないまま言い掛けて、喋れなくなった。 口を塞がれて安っぽいドラマみたいに、気を失わされた。 「マナイ宰相!  咲季母様は!?」 「逃したはずだ!」 蹴散らしたが手応えがおかしかった。 咲季を逃したら、直ぐと言って良いくらい、戦うのをやめてゴロツキ共は散って行った。 シュリと合流して初めて、最初から足止めをさせるつもりで襲ってきたのだと理解した。 「クソッ!!  私たちから咲季ちゃんを離すためのだ!  陽動作戦に嵌められたんだ!」 今日、城下に出ることを知っていた者はいない。 いきなり、咲季を連れて行こうと決定したのは数時間程前だ。 なら、城下で咲季を見て、これを手配するだけの財力と裏に力がある者、と言う事が絞れた。 黒目黒髪を見られたか? フードを被り髪が出ないように、深く被せた。 猫科の耳がついていたし、普通に獣人の子供風だった筈だ。 マナイとシュリは獣化したまま、これらの事を考えながら、咲季の匂いを追った。 「私とした事が…」 サーベルタイガーの牙に付いた血を舐め、散って行った男達が再び集まりつつあるのを、途中で気が付いた。 作戦が成功したなら、報酬なり結果なりを確認しに命令した者の元へ集まる。 ただ、咲季の能力や咲季自身を利用するための計画なら、命令した者を押さえるのが早いが、更にその上に依頼した者がいたら、時間のロスに繋がる。 「シュリ、咲季ちゃんの匂いをそのまま追え!  私は、男達の集まる匂いを追う!  出来るな?」 「やる!」 「制御の腕輪、外して良いぞ!  必ず咲季ちゃんと戻れ!」 「了解!!」 マナイとシュリは二手に分かれて、走った。 咲季と男達の行く先が同じであってくれと、マナイは祈らずにいられなかった。 トルクの元へマナイからの緊急要請が入った。 マナイが得意とする支配系の魔法で、鷹が窓から飛び込んで来て、その口からマナイの声が聞こえて来た。 〔咲季ちゃんが拐われた!  二手に分かれて、匂いを追ってる!〕 その先の言葉を聞く前に、トルクは鷹が入って来た窓から飛び出して行った。 「うぁ、父様、ヤバイな」 フロウが冷静にトルクの行動を見ていた。 相変わらず端的だが、その手には小さな魔法陣が、大量に出来ていて国中に飛ばした。 「フロウ、見えた?  母様、いた?」 フロウが作った魔法陣は、所謂、監視カメラを国中のあらゆるところに設置して、今いる場で確認できる様にしたものだった。 「母様、どの辺でいなくなったんだろう?  僕も記憶を辿るね」 「マロ、母様が居なくなった場所から、記憶を引き出して、俺がこれで追いながら見つけるから、早くして。」 マロは数分前の時の記憶を、その大地から索敵した。 範囲は、国、全体。 もっと言えば、この世界全部を見る事が、この二人には出来た。 「いた、コイツに拐われた。」 「ん、コイツな。  娼館、かな?」 「本当だ。  シュリがこの前、誰かに連れて行って貰ったって言ってたね。」 「良かった。  母様の能力を知って拉致った訳じゃなくて。」 シャズは二人の会話と、その能力を見せつけられて、青褪めていた。 時間遡るとか、国中を細かく見れるとか、無いだろこれ、と。 ただ、二人は"黒"だから、と納得していた。 「まあ、後はシュリと父様に任せよう」 「鷹さん、父様とシュリにこの場所伝えてくれる?」 「それじゃ、シュリには無理。  脳筋だから。  シュリには俺の片目を繋ぐから、マロは父様に伝えて」 「うん」 早期解決する気がした、シャズだった。

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