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トルクの怒り
「咲季ちゃん、良かった」
猿轡で喋れなくても、うんうん、と頷く咲季が可愛いとマナイは思った。
「は!
今から、レオハルトが来るよ
豚は、そのまま捕食されたらいい」
「どうやって?
来たとして、どうやって連れ帰るつもりだ?」
「そんな心配、死ぬ人がしなくて良いんだよ」
「死にゆくなら、最後にいいことの一つはして行った方が良いと思いますが?」
「何言ってんだ、コイツ」
その瞬間、咲季を抱えていた男の頭半分が切れ落ちた。
ダバーッと血が流れ、脳漿が飛び散り異様な臭いが辺りを包んだ。
一人分の脳漿では無く、そこにいた雇われた者、全員の脳漿が飛び散っていた。
「息子は首ではなく、頭を切断するのか。
まあ、どちらも一振りで済むな」
死んだ男の肩から落ちそうになった咲季を受け止めたトルクがそう言った。
「私なら首を落とすが、これは汚いから考えてやりなさい。
後始末をする人の事も、これは嫌だと思うよ、シュリ」
「まだ、慣れてなくて、母様を傷つけたくなかったから」
「訓練だな。」
「はい、精進します。
父上」
二人の会話を聞いていたマナイは、益々笑った。
「トルク兄様、咲季ちゃんと安全な場所へ。」
「マナイ叔父上、その足では」
「大丈夫だ!」
あっという間の事に加えて、おかしな会話に主犯の二人は呆然としていた。
「トア、お前が兄弟である事が心苦しくて、
生きているのが辛かったよ。
でも、こんなに早くお前を潰せる機会を与えて貰って、レオハルトには感謝しかない」
マナイがトアの肩に、サーベルタイガーの牙を立てた。
片足はちぎり捨てた。
そして、ちぎり捨てた切り口のまま、弾みをつけて跳びその血を使って目眩しをした。
猿轡を外して貰った咲季が、叫んだ。
「マナイ兄様!
逝く事は、罪を償う事にならないよ!!」
トアの肩に食い込む牙は、肉や筋を引き千切りもう少しで肺に達する。
「ぐああああ!
マナイ!お前!」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ」
噛まれ引き千切られそうなそうな息子を見ても、動こうとしない二人の父親にトアが助けを求めた。
「いや、いや、そこまでされたらもう助からねーよ。
トア、残念だな。
俺は逃げさせてもらうわ」
そう言うと、崖に向かって走り出した。
だが、その瞬間、マナイと同じ足の腱を切り裂いた。
「ぎぃあああああああ!!
くそっ!くそっ!くそっ!
なんで俺が!」
足が切られた事で動けずに、転がった。
「ああ、まだご存命でしたか。
今度はレオハルトと手を組みましたか?
この子達の母を犯した時と同じ事を考えるとは。
下衆は汚物の中を這いずり回れ。
咲季は私の伴侶でこの子達の母なんですよ。」
トルクが一歩、また一歩と近づき、転がる男を足下に見据えた。
そしてその爪で男の顔を削った。
文字通り削った。
「ぎゃっ!!!」
「ああ、その顔じゃ、誰も近づいてこないですね。
治癒魔法でも、跡は残りますし皆警戒してくれるでしょう。
もう少し削りましょうか」
そう笑うと、更に、爪で抉った。
「うギャァあ!!!」
「ああ、可哀想に、爪に眼球がついて来ちゃいました。
まあ、まだ片目が有りますからね。」
トルクが今までの怒りや、今回の事のへの怒りの対価にしては安い"怪我"にした理由を、この男がもう少し考えられれば、この先に起こる事を防げた筈だった。
ただ、防ぐとか争わないなど、そう言ったものを持ち合わせていれば、最初から不幸な子供も生まれず、不幸な生贄の様な隣国に行かされた、この子達の母はいなかった。
「さあ、これでレオハルトの所へ行きますか?
私的には、このまま行って頂きたいがな」
「ひっ!ひぃぃ!
レオハルトのとこに?!」
「ああ、それとも本当の依頼主の所に行きますか?
私はどこの国と喧嘩しても構わないのですよ。」
「な、何を言っている?」
「ああ、既にいくつかの国と取引をしましたか
トア達の様に、子供を売るつもりで。」
この男はサーベルタイガーの子もしくは強い血を持つ子を売るために、この子達の母になる人を犯したのだった。
種族を重要視する国と取引をする為に。
「相変わらず愚かですね。」
「クソ兄貴のせいで、俺が国王になれなかったからさ!
お前たちが滅びればいいんだ!」
抉られた傷や、失った眼球の穴を押さえながら、足を引き摺って崖を飛び降りた。
どこに流れ着こうが、既にフロウのカメラが張りついている事で、今回の咲季を狙った人物や国を特定出来るのだった。
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