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お世話になってるアトリエから家まで歩いて約二十分。
「早く自立しろよ」と妹に怒られるけど元々ここは実家なんだし俺が住むことに何の問題もない(多分、家のことじゃなくて仕事のことを言ってるんだろうけど)。
そんな妹こそ最近結婚をして、新居が見つかるまでここで夫婦と暮らしてるんだから、むしろ居候はそっちのはずだ。
………まぁ、そんなことはいい。
妹は俺と違って堅実で頭のいいいわゆるキャリアウーマンってやつで、バリバリ楽しく働いていて残業も休日出勤も当たり前。
そのため家にいることも少なく、家事一般はそっちに任せる、子供もしばらくは作らない、という条件を相手が呑んでくれたとかで結婚までこぎつけたようだ。
「あ、お義兄さんお帰りなさい!」
ドアを開けるとたちまちいい匂いに包まれる。
「咲也 くんただいまー。んー、今日は………豚肉系?」
「そう! スペアリブを醤油とニンニクで煮込んだやつ! お義兄さん、これ好きでしょ?」
「もう、他人行儀に呼ぶなつってるだろー?」
猫のプリントのついた(後で聞いたら本人の手作りらしい)エプロン姿の義弟、咲也くんをどさくさ紛れに抱きしめて、犬のように顔を寄せてウリウリと頬擦りする。
しょっちゅうしているせいかキャハハと笑い、もはや抵抗しない長身で細いカラダ。
「今日もお疲れさまですっ、大変ですよね、ゲージュツ関係は僕よくわからないですけど」
「いやいやただの弟子だから大したことないよ。あ、でも今度展覧会で何品か出してみろって言われたから、」
「すごいじゃないですか! 自分のお義兄さんが芸術家、ってなんか誇らしいです」
「ありがと」
黒目がちな目は長いマツゲで囲まれ、いつも羨望のような眼差しできらきら俺を見ててとてもチャーミング(ムフv)。
「あ、ビール飲みますよね?」
「んー」
「お風呂も沸いてます」
煙草を手にすれば、さっと灰皿だって出してくれるこのさりげなさ。
「うん。………あ、そんなに気を使わなくていいよ。こっちこそいろいろやってもらってて申し訳ないと思ってるし。
全部任せっぱじゃん? 買い物もそうだし掃除もだし、家計簿だってちゃんとつけて、俺の洗濯だってしてくれて、」
「あっ、それはだって………仮とはいえお義兄さんの家にお邪魔してるわけだし………」
「だから気にしなくていいって! 俺にしたらずっといて欲しいくらいなんだし」
これ本音。超本音。
「あっ、なんか召使いみたいな言い方でごめんね? そうじゃないから。俺こそ咲也くんのことすげぇなって尊敬してるよ」
「いえいえっ、僕は、」
「さ、腹も減ってるし褒め合いは置いといてメシメシ~♪ …………アイツはいつ帰ってくるの?」
「今日も残業だって聞いてます。もしかしたらまた会社で泊りかも………」
「じゃ今日も俺たち男同士でパパッと食おうよ。ビール飲んじゃおっぜー、咲也くんもね」
「はい………あ、僕の方も『咲也くん』って呼ばれるのはなんかくすぐったいですね」
「でしょ? んじゃ咲也にしよっか? その代わり、俺のことは『友樹 』ね。敬語もダメ」
「えっ、いえ、そこはさすがに『友樹さん』、で」
「ん、いいよ。お義兄さん以外だったら好きなように呼んでよ」
初めて呼ばれた『友樹さん』という言葉にグッとくる。
こうやって、二人きりで夕食を食べるのがほぼ毎日。
スマートな体、いつもはにかんだようなかわいらしい笑顔、加えて猫エプロンのトッピング。
…………そんなドンピシャなタイプと毎日こんなことしてて惚れるな、って方が無理だろーが、おぅ?
どんどん気持ちは高ぶってくるし、………今夜こそ決行しちゃおっかなー。
◆◆◆
カチャカチャと皿洗いしてる咲也の背中にもたれ、アイスを行儀悪く食いながら話しかける。
「にしてもさぁ咲也、ぶっちゃけアイツと二人きりになるってこと少ないんじゃないの? 特にここ最近」
「あ、はい。最近企画書が通ってプロジェクトが出来たみたいで。リーダーにもなったのでますます張り切ってまして………だから、邪魔しないように応援してあげたいな、って」
もちろんすっかり日常な風景で気にもせず明るい声で答える。
「だとしてもさ、シンコンサンなんだし………正直溜まってるでしょ?」
「っ!、けほっ……おに、友樹さんそれはっっ」
洗い物を終え一杯の水を飲んでる姿に声をかけると、わかりやすく顔を赤くして動揺する。
「俺もいるしやっぱラブホとかで済ませてるの? んで誰もいない時はお部屋で一人、」
「あのっ、そのっ…………」
「んふふ、…………ねぇ咲也くぅ~ん、」
もじもじする姿がさらに愛らしくて、背後から抱き着いて体を揺すりながら耳元で囁いてみる。
昔から気の合わない、ただの口うるさい妹としか思ってなかったけれど。
―――今は感謝してるよ。
「…………この友樹おにーさん、秘蔵のエロいビデオいっぱい持ってるよー?」
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