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プロローグ
四月初めのけだるい陽射しが、都内一等地のマンションの部屋へ降りそそぐ。
大宮 南 は涙を堪えながら、アッシュグレイのバッグに荷物を投げる。あのとき買ったシャツとボトム、数冊の本。
「俺のものないな……」
頬にキスを落として優しく触れた指先が、いまさらながら胸もとにつきあげてくるほどに愛しい。
行きたくない。
離れたくない。
でも、ここから去らなければならない。
急がないと手遅れになる。
『ミナミ、起きろよ』
甘ったるい沁みこんだような低い声。透きとおった銀髪。整った鼻梁にアイスグリーンの瞳。誰もが魅了される美しい顔立ち。そんなのは必要ない。
一粒の光がミナミの視線をとらえ、それがダイヤのピアスだと気づく。
「ごめん、ユージ」
そして、ありがとう。
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