2 / 7

執事飼い 1

年下攻め/腹黒美少年攻め/婚約中執事受け/  大好きな執事が結婚をすると耳にして、銅鑼権佐原(どらごんざわら)魅狼(みろ)は気が気でなかった。同性の、この城ではないところの勤め人と結婚するという。さらには辞めるというのだ。寿退社をするというのだ。メイドがそう話していた。  話題の渦中にある狗飼(いぬかい)羊一郎(よういちろう)は、仕事こそ忠実だったが、派手さはなく、生真面目で、命令ならば何でも聞いた。幼い頃の、だが本気の求婚に応えていた。それでいて魅狼の贈った玩具の指輪を嵌めた場所に、知らない銀輪が嵌っている。気が気でないままそれを目にしてしまった。胸元のリボンを結び直させている途中で魅狼は大きな手を触った。指輪が嵌まっている。指の腹で擦って汚した。手垢と指紋を付ける。 「羊一郎」  変声期を終えても高さのある声は優しさのある質感で、この若過ぎる当主の本性を覆い隠すには十分だった。 「はい、魅狼様」  リボンが整う。魅狼の手が狗飼のリボンタイを解く。優秀で忠実な執事は微笑んだ。それを彼の中ではいつまでも幼児でいる主人の「構ってほしい」の合図だとでも受け取ったのだろう。 「遊んでほしいの」  目を大きく開き、顎を引く。少し喉を狭めると同情を煽り、保護欲を掻き立てる声が出せた。 「はい。では何をしましょう?」 「わんわんごっこ!」  食い気味に答えた。道具はすべて用意してある。昔のプロポーズを無下にした男をどう甚振るのか、それは怒りを通り越し楽しみになっていた。未来の配偶者になるはずだった男を、知らぬ間に去勢されなかった泥棒猫に奪われてしまった。白い手袋に忌々しい指輪が呑まれていくのを凝視した。 「わんわんごっこでございますか」 「うん。ボクも羊一郎もわんわん役ね!」  魅狼は様々な商人から買った"わんわんごっこ"の道具を出した。まず垂れ耳を模したカチューシャを被る。 「どう?似合うかな?ボク、可愛い?」  眉を下げ、俯きがちに狗飼を捉える。一歩間違うと相手を睥睨(へいげい)しているようにみえたが、この若い主人はその加減が上手く、日常的な印象作りを怠らなかった。 「はい。大変似合っておいでです」 「へへ、羊一郎にそう言ってもらえて嬉しい!羊一郎にもあるんだよ!」  道具箱からエナメル質の真っ赤な首輪と腕輪を取り出す。首輪には大振りなスタッズがついていた。狗飼をリードで繋ぐ遊びは日頃からやっていた。腕、足、首に革製の輪を嵌めたこの執事の姿はこの世の何よりも美しかった。左手の薬指にも銀製の小輪を嵌めたかった。買うだけならばすぐにできた。今すぐにでもできる。しかし魅狼は、その場所に嵌める小さな円環だけは物理的なものとして処理したくなかった。 「後ろ向いて?ボクがハメハメしてあげる」 「お願いいたします、魅狼様」  彼はシャツの袖のボタンを外し、自ら腕輪を嵌めようとした。 「ダメだよ羊一郎。そこもボクがハメハメしてあげるんだから」  首輪を伸ばし、背中を向けて屈む大好きな執事の首に丸みのつけられた短いベルトを巻いた。スタッズが輝いている。そして首筋には薄紅色の小さな痣がある。愉悦と合併してしまった怒りが湧いた。宗教画に描かれた楽園天国の徒を思わせる可愛らしい魅狼の顔面に仄暗い微笑が浮かんだ。 「あ、羊一郎、虫さんに刺されてる。羊一郎はオイシソウだから、虫さんも刺したくなっちゃったんだね」  悪い(オス)が、清潔感に溢れて淑やかで楚々としたこの執事に穢らしい欲望まみれの陋劣な逸物を挿したに違いない。怒りと癒着してしまった喜悦が少年当主の表情を素直に歪めた。 「お薬塗ってあげるね」 「魅狼様のお手を煩わせてしまいますので、結構でございます」 「でも痒いでしょ?ダイジョブ、塗ってあげるから待っててね」  白い肌がキスマークよりは淡く色付いた。形の良い耳まで赤い。貞淑げな執事の視界から外れると魅狼の顔から愛らしい笑みが引いていく。ものぐさ故に何でも入れておく箱の中を漁り、清涼感のある軟膏を出した。少しでも切り傷や掻き傷を作ると館中が騒ぎになるため常備している。小指の爪の幅ほどもない傷で注射を打つだの点滴をするだのの騒動になる。揃いの小さな銀輪を嵌めるはずだった指で軟骨を掬う。玩具の宝石でも喜んだのは何だったのだと怒鳴り、誹りたくなった。魅狼は頬を引き攣らせてから、皆々が守りたくなるような愛嬌のある笑みを貼り付けた。 「じゃあ塗るからね。ちょっと、スースーするからね」 「はい…」  虫刺されにしては平坦で斑らな痕にしなやかな指が這う。円を描くように塗った。泥棒猫に泥棒された純潔を惜しむように!この執事の節くれだった指に嵌った卑しい銀製リングのサイズを思い描いて!思い出せ、思い出せ、昔プロポーズしてそれに快諾したことを! 「へへへ~、他にも虫刺されあるんじゃない?」 「い、いいえ……他にはございません」 「本当?掻き毟らないようにボクが見てあげようか?」  まだ執事の顔は紅潮している。火照っているのか黒い目がよく濡れている。白い光がその中で泳いでいる。何を思い出したのか問い詰めたくなった。泥棒猫との卑猥で意地汚い交尾を思い出したのか。この逞しく立派で剛健な肉体に入り込んだのは蚊の口吻や蜂の毒針などではなく、奸譎(かんきつ)極まりない不潔な男根なのだ。力一杯にベルトを絞めたなら、誰のものにもならずに手に入るだろうか?しかしそれでは、この男は枉惑的な巨悪の牡猫を想ったまま完成してしまう。 「首だけ出して寝ていたものですから……」  本人も訳の分かっていなそうなことを言う。目が泳いでいる。この薄い唇からは、まだ一言も結婚のことを聞いていなかった。例え話か何かに尾鰭背鰭腹鰭が付き、次第に泳ぎ出しかと思えばいつの間にか一人歩きするにまで至った根拠のない噂とすら思い眠ろうとして朝を迎えていたこともある。しかし指輪は決定的だった。鉈を手に入れて指輪(つば)の付けられた指だけ切り落とそうと考えたこともある。 「首だけ?首じゃないところも出して寝てるんじゃないの?」  甘えた声を作り、揶揄うような調子も無理矢理に捻り出す。 「い、いいや、そんな……」 「手とか顔とか!やだな、羊一郎。寝るときも手袋してるのぉ~?」  にこりと無邪気に笑うと面白いほどに執事の惚けた表情が引いていく。 「さ、さ、手、出して。ハメハメしてあげる」  シャツの袖口は開いたままだった。片方も開く。彼は捲るものと思っていたらしいが魅狼はシャツを肩まで脱がせてしまう。 「み、魅狼様。どうかなさいましたか」 「わんわんは服着ないもん。脱いで。ボクも脱ぐから」  魅狼は裸になった。彼の襁褓(おしめ)も当時少年だったこの執事が見習いとして換えたのだ。風呂にも入った。求婚もしたのだ!恥じらいはない。そして素肌に首輪代わりになる形状のバンダナを巻いた。尻尾の生えたパンツを穿く。その間、狗飼はシャツ一枚も脱ごうとしなかった。 「羊一郎…?」 「魅狼様……恥ずかしいです…」 「恥ずかしくないよ。ボク、羊一郎のおっぱいもちんちんも見たことあるもん」  躊躇いはストリップショーを導いてしまった。彼が素肌を晒すのを魅狼は遠慮なく眺める。肩や腰にまで例の虫刺されがあり、胸元に集中していた。 「ダニアレルギーがあるのかなぁ?あと2回くらいお部屋の掃除増やしてもらおうよ。1日5回くらい綺麗にしてもらえば大丈夫?」  俯いた緊張感のある、すとんと落ちた額と隆起を作る鼻梁のラインを魅狼は喜びに満ち満ちた笑顔で見つめた。息が詰まるほど美しい。冷淡で寡黙、威圧的な印象を受ける顔立ちが口を開くと温厚で見た目のまま礼儀正しく、少し白痴さを思わせるほど純粋なのだ。そこに色事の陰を感じれば魅狼でなくても陰部の根付く下腹を疼かせるだろう。 「ち、違います………これは………」  彼の両手首に腕輪を嵌める。白い肌に毒々しい真っ赤なエナメルが映えた。鎖で繋ぐ。執事は魅狼を見た。笑いかける。本気で抵抗されたなら負ける。しかし半分、この誠実な執事が主人に本気を出して抵抗、反発、返り討ちにはしないだろうと高を括ってもいた。たとえ結婚することをその口で伝えていなくても。昔交わしたプロポーズを反故にしていたとしても。 「魅狼様……もし何かあった場合、これでは魅狼様をお守りできません」  両手の自由が制限されたことに彼は不安を訴えた。しかしその時にはすでに魅狼は足首にベルトを嵌めていた。 「お部屋番の人カッコいいよね。ボクに何かあったらあの人が来てくれるよ」  新しく配属された愛想笑いも浮かべない美青年で、挨拶や話しかければ返答はあったが、とにかく何も喋らなかった。定年退職した人の好さげな老齢の警備部員と入れ替わりに廊下には彫刻が置かれたのだ。魅狼は好きではなく、最初に狗飼の結婚を聞いた時、配置や役割からして相手はその警備隊の美男子かと思っていた。何故ならこの館の当主ではなく、この執事にだけ、凍りきり固着した頬と口角が多少なりとも動くからだ。 「でも羊一郎、こんなスゴい姿見られちゃうね」  従順な執事の身体を押してをベッドの上で四つ這いにさせた。彼は無意識のうちからただ手で導くだけで膝を開き、上体を伏せた。それが忠誠心なのか、性根の腐った卑劣漢の人非人に仕込まれたのものなのかは分からなかった。両足の間を鎖で繋ぐ。勝利を確信した。ベルトを外し、上質なスラックスを下着ごと下ろす。「魅狼様……足もでございますか」 「だって羊一郎、すごく似合うよ」  片方ずつ膝で田屈(たご)まったスラックスを引っ張る。足首のベルトで留まった。とにかく何でも入れておく箱からハサミを出した。耳元で一度、金属を鳴らす。 「何を…」 「もう羊一郎は一生ボクのわんわんだよ。だからもう服なんて要らないよね」  青褪めた顔がおそるおそる魅狼を振り向く。 「お、おやめ……ください……」 「羊一郎がイケないんだよ?」  ハサミが鳴る。翻した部分から切っていく。刃が詰まった。断ち切りバサミに持ち替える。脱がせることになるだろうとは想像していた。その他の選択肢に脅迫と睡眠薬を盛ることがあった。 「おやめください、おやめください、後生ですから…っ!」 「動かないでね、怪我しちゃうよ?ボクはね、羊一郎を痛い痛いしたいわけじゃないの」 「どうかご慈悲を………ッ」  スラックスを引っ張り、断ち切りバサミに噛ませる。低く軋み、固さも伴いながら上質な生地が裁たれていく。裏地に柄があった。誰も見るはずがない。否、脱がす者ならば見るのだ。洗濯し、乾かし、アイロンを掛け、畳む者には。発作のような苦しさが一撃、魅狼の喉元まで迫ってきた。不埒な執事のことで眠れない夜に起こる。この息苦しさの一打は快感にもなっていた。 「(わたくし)めは、何か……とんだ粗相をしてしまいましたか……?」  黒い瞳が潤んでいる。神経質そうな眉が縮んだ。 「そうだよ。羊一郎はボクのこと壊したんだよ。ボクのことを!ボクが綺麗で可愛い女の子と結婚できなくなっちゃったのはね、羊一郎のせいなんだよ?羊一郎がボクを夢中にさせたから。羊一郎がボクを夢中にさせるから、ボクは誰とも婚約しなかったんだよ?それなのに!ボク以外の(ヒト)と結婚しようとしたでしょ!」  目の前でスラックスを切り刻み、下着も裂いて破いた。室内飼いをするのだ。冷暖房はある。外には出さない。悪いし野良猫と交尾してしまうに決まっているからだ。 「ああ……お許しください!お許しくださいませ!」  全裸に剥かれ赤く染まった肌が湿(しと)り黒真珠から涙が落ちていく。 「許さないよ、羊一郎」  ダストボックスにただ質の良いだけの切れ端の山が捨てられる。引き締まり窪みを作る臀部を(はた)いた。 「魅狼様………お許しください。謝ります!私が魅狼様を傷付けていたのなら、謝りますから……!」 「謝ってもすまないよ、羊一郎。ボクの心のキズはもう羊一郎でしか埋まらないよ?羊一郎!羊一郎は誰のモノなの?」 「私は魅狼様のものでございます!」  魅狼はまた可愛らしい手で逞しい尻を叩いた。 「嘘ばっか!嘘吐き!羊一郎、ボクに隠し事するだけじゃなくて、嘘まで吐くんだ?ボク、羊一郎がいい子いい子ってしてくれるから、本当に、いい子になろうと思ってたのに。羊一郎がそんな態度取るんじゃ、ボク、もういい子になんかならないんだから」  だが、もし、腐りきった愚劣極まる人間の屑のものだと言ったなら、震える腿の間でぶら下がっているものも、手袋の下の裏切りの指共々切り落とすところだった。 「魅狼様……魅狼様、お許しくださいませ………」  慈悲を乞う姿も変わらず美しかった。尻を叩く。尻たぶがひくりと引き締まる。泣いている顔が見たくなって正面から捉えた。 「かわいいなぁ、羊一郎」  整えられた髪に指を入れ、掴んだまま口付ける。彼が出すプリンよりも柔らかく、甘い。触れるだけ触れて離した。 「毎日ボクが頭洗って、乾かしてあげる!逆になっちゃったね!これからは髪下ろそう?かわいい」  大型犬が手に入った。大好きな執事で大型犬だ。魅狼は哀願の声も無視して執事を抱き締めた。唇に何度もキスをする。やがて物足りなくなった。薄い唇を()み、舌を伸ばす。普段は艶やかで、齧って啜ってみたくなるほど瑞々しいそこは乾いていた。魔憑きの巨悪妖精の大将よりも狡猾なろくでなしに素肌同様汚されきったのだ。魅狼は分からせるように、ひとつひとつ脳髄から骨の芯にまで理解できるよう強制的に二重婚約させる大型犬の唇を甘噛みした。 「ぁ……ぅ、う…」  手も使えず首を強張らせ、力任せに後退しようとする様が犬らしかった。逃がさない。この犬は番いを見誤ったのだ! 「羊一郎、かわいい。ホントのわんわんみたい。羊一郎!ボクもわんわんだから、いっぱいペロペロしてあげる。羊一郎もいっぱいペロペロしてね。羊一郎はわんわんなんだから。ボクのわんわん!羊一郎…」  首輪を引っ張った。犬は首を後ろに倒し抵抗する。 「人間だった頃は、はいはい何でも言うこと利いてだけど、わんわんになったら悪い子ちゃんになっちゃったの?羊一郎。じゃあ躾けてあげなきゃ」  魅狼の白くなめらかなな手は、ぱんと張った狗飼の胸部に伸びた。指先に突起が当たった。両胸の先端を同時に摘んだ。 「はぅ……ッ!」 「羊一郎のおっぱい、ボク大好きだった。羊一郎がおっぱいで感じるってボク、知ってるんだよ。ボクが寝てる時、いっつも揉んで、お乳飲むところクリクリしててあげたでしょ?あの時起きてたの。ボクに触られてそわそわしてた羊一郎、すごく可愛かった。ボクにおっぱい飲ませてくれてた時も、いっぱいペロペロして、羊一郎、すごくもじもじしてたよね?ボク、ずっと我慢できなかったんだ。羊一郎はおっぱいも、羊一郎のカオも、ずっと忘れられなかったんだよ?羊一郎がボクを壊しちゃったんだ」  凝っているそこを指の腹で擦った。海原も知らず生温(なまぬる)な井戸水に浸かって意気がるドブ蛙も、脂肪は少ないが筋肉によって豊満と表現しても差し支えない胸を捏ね繰り回して悦んだのだろうか?魅狼の指に力が籠る。 「ぁっ、ぁぁ……っ痛いです、魅狼様…」 「痛い?じゃあ舐めてあげなきゃ。羊一郎は執事なんだかわんわんなんだか牛さんなんだか分からないね!」  魅狼は四つ這いになっている元執事、現強制的婚約者の下に潜り込んだ。色付いて勃起している小さな実へと吸い付く。鍛えられた胸板を揉みしだき、片方の実粒も弄ぶ。汗の味がした。舌で転がし、薄い皮膚の中に押し戻す。甘く噛むと弾力があった。 「ぁあっ、」  わざと空気の破裂するような音を立てた。唾液も混じる。じゅるる、ぶじゅじゅ、と音を鳴らし、剛健な胸筋にふたつ鎮座する淫らな小堅果を責め嬲る。口内炎を気にする時よりも輪郭があり癖になった。昼寝の時でさえ、素肌に直接こうしたことはない。魅狼は本当に母乳を欲する嬰児に、怒りと酷似した劣情を混ぜたようなものになってしまった。指で突つき擂り潰し、舌で焦らして吸い付く。胸を奪われた身体が震えている。それは腰からだった。膝も戦慄している。腿の間に潜んでいた器官も徐々に布団と平行になろうとしていた。 「羊一郎のおっぱい美味しい。先っちょコリコリしてて、すごくかわいい。でもなんでこっちからお汁出してるの?」  魅狼はベッドに仰向けになりながら狗飼の陰部の真下に潜った。薄い皮の中からペールピンクの丸みが顔を出して泣いている。 「羊一郎はこっちからおっぱい出したいの?」  握ると、肉厚な天井ががたがた震えた。泣いていたペールピンクにある窪みがとうとう涙を流してしまう。切れが悪く糸を引いて垂れている。 「み、魅狼様……そちらは大変、汚いところでございます……っあ、あぁ……んん、」  透明な粘液を魅狼は舐めとった。小さな果物を思わせる先端の膨らみに入った浅い裂け目を舌でなぞる。長く太い突起状のそこだけが独立しているかのようにぶるんと振れた。 「汚い?誰かさんの手垢と唾が染み込んでるから?大丈夫だよ。羊一郎のはどこかの誰かさんに何されたって綺麗だから」  歯を立てないよう唇で覆い、舌と口内の熱、唾液を頼りに刺激する。ぶるぶる、ぶるぶる、と狗飼は腰を揺らした。口内で彼の味が広がる。本物の花の蜜を味わうような嫋やかな加減で吸った。支えている手の中で固くなっているのが分かる。主人以外の下賤で浅ましい禽獣同然の色情魔にもこうして甘えたのだ。この股の腫物をこのうえなく固くして。 「魅狼…様……」 「美味ひぃよ羊一郎(よういひろう)。ねぇ、ボクがプリンらのチョコレートらの甘いものばっひゃ好きらと思っひゃ?羊一郎のおちんちん、ちょっろしょっぱぃね。苦さも()れきた。他にこの味知っれる人いるのかなぁ~?」  張っていく双珠を揉んだ。薄い皮の下に中に何か入っているという面白みがある。柔らかなゴムの質感に似ていた。 「み……ろさま、おやめ………くださ、い。おや…………め、くだ……」  震えた声が胸を熱くさせる。絶対に手放さない、むしろ何があっても手放せたいとすら思った。魅狼は爛々(らんらん)とした目を(みひらい)て熱心に今日から犬になった元執事の陰部を舐め(ねぶ)る。舌先が這うひとつひとつに、彼は誰のものであり、誰に一番愛されているのか念を込め、扱きながら口淫を施した。ぶるぶると膝を震わせ、腰を動かしてしまっている姿に魅狼は激しい悦びを覚えた。これ以上何も望むことはなかったが、肉体は飢える一方だった。 「許さないよ、羊一郎。ボクのこと、こんな誘惑(こわ)して!ボクは女の子と結婚して、赤ちゃん作らなきゃいけないんだよ?分かる?羊一郎も赤ちゃんの(もと)持ってるなら分かるよね?なのにボク、赤ちゃん作れなくなっちゃったの。毎日毎日羊一郎がぱんって張ったおっぱい見せてくるからだよ?ミルク出すところツンってしてた時なんか、ボク、おちんちん爆発しちゃうかと思ったんだから!責任取ってよ、ボクはもう女の子と赤ちゃん作れないよ。ボクの赤ちゃんの素はどうすればいいの?羊一郎!羊一郎の赤ちゃんのママとパパになりたかったけど、ボクと羊一郎じゃ赤ちゃん作れないもんね。だからボクが赤ちゃんたちをパパと遊ばせてあげるね。嬉しいでしょ。ボクの赤ちゃんもパパに会いたいって言ってる。羊一郎。ボクの赤ちゃんのパパになるんだよ?嬉しいでしょ?」  手慰みに扱いていた茎はもう限界のようだった。意地の悪いところで放す。刺激をやめたというのに元執事の腰は前後に虚空を穿った。 「ぁあ……魅狼様ぁ……」 「ほら。ボクと羊一郎の赤ちゃんたちだよ?遊んであげて」  魅狼は彼の前に、大好きな男の痴部、痴態を見たことで猛り狂っている巨大な逸物を出した。 「魅狼、様……ご慈悲を、ご慈悲を……何でも致します。魅狼様、(わたくし)には…」 「貞操、貞節、貞淑を永遠に誓ったかけがえのない相手がいるって言いたいの?ボク以外に?いないよ。いないの。だってそれを先に誓ったのはボク。でしょ?羊一郎パパ。ダーリン」  顎を掴んだ。少し火照っている。とろんとした目には欲を隠せていない。開いた唇の奥には湧き水が今にも溢れそうに満ちていた。 「嫌でございます………魅狼様、どうか………どうかお許しくださいませ…」 「ダメ。許さないよ。嫌じゃないでしょ?」  首輪を引っ張る。首が振られた。黒い髪が乱れはじめている。 「嫌です、嫌です、魅狼様……!」  狗飼からは聞いたこともないほどの明確な拒否だった。普段は苦笑とともに柔らかく往なされる。魅狼は彼を凝視する。瞬きもせずに見つめ続けた。 「………そんなに、ボクのこと、イヤ?」  次第に眼球を潤そうと涙が出てくる。声音を弱々しくして、眉を寄せた。唇を軽く噛み口角を下げる。 「ボク……そんなに羊一郎に嫌われてたんだ。ごめんね、羊一郎。ボクは羊一郎のこと好きなのに……」  みるみる元執事の表情が焦っていく。 「魅狼様!違います!そうではなくて……」 「そうなんだよ!羊一郎はボクのこと嫌いで、嫌いで、早くボクから離れたいんだ。だからそんなこと言うんだ!ボクから逃れるために望まない結婚するんだ!」 「違います!違います、魅狼様!」 「じゃあボクの、舐めて?羊一郎が悪いんだよ?羊一郎がおっぱい見せてくるから。羊一郎がいい匂いしてて、かっこよくて、かわいいのがいけないんだよ?羊一郎がボクに襲って欲しかったって言ってるんだよ?そうでしょ?太々しいおしりして、ボクに触って欲しいってずっと言ってたクセに!」  鋭さのある鼻を摘み、魅狼の外見的な印象には合わない剛茎を従順な口に突き挿した。 「んぐッ、ぐ………んンんッ」  熱い口腔と柔らかな内膜、切なく寄せられた眉根、眇められた切れ長の目。これだけで魅狼は悦楽の境地にまで達してしまいそうだった。大き過ぎる充足感は身体と脳には負担だった。深々と息を吐く。しかしまだ足らない。満足の上にはさらなる飢渇(きかつ)が待ち構えている。 「噛んでもいいよ、羊一郎。ボクのずたずたになったおちんちん、食べちゃいない。この夜のこと、忘れられなくしてあげる。ボクの赤いお血々(ちち)、飲みなよ。だって羊一郎にあげられないんじゃ、ボク、おちんちん要らないもん。女の子には勃たないんだから」  おそるおそる、もしかすると主人の幼い手から逃れるために、元執事は首を引いた。もどかしいほどの快感が生まれる。随分と前にいた、若いメイドの娘が魅狼の性体験の初めての相手だった。彼女との下肢の交わりに匹敵する。目眩がした。明滅もする。全身は突沸した。 「すごい………羊一郎、すごい、かわいい……大好き。愛してる。一緒放さない」  甘やかな言葉と裏腹に魅狼は腰を振った。華奢な少女の拳ほどの太さを誇る肉棒が、控えめでウサギを思わせる小さな口元を抉じ開け、容赦なく往復した。舌がグロテスクな括れに引っ掛かる。彼の口を犯している!感触だけでなくその事実にも魅狼は興奮した。 「ぐ、んんっぐぅぅ……!」 「かわいいね、羊一郎。すごくかわいい。もうどうしていいか分からないよ。ダメだよ?もうボク以外にこんなことさせちゃ。もっと早くこうしてればよかったんだ。羊一郎のお口も、おっぱいも、おちんちんも、おしりも、ぜ~んぶ、ボク1人のものだったのに」 「く……ンンっ、ぁぐ、く………ん、」 「ボクの美味しいでしょ。すごい、喉まで入っちゃうんだ?ボクのために練習しておいてくれたの?……ぁ、んン、喉、すごい締まる………ぁっ」  魅狼の下半身は元執事の多量に分泌された唾液によって光っていた。まだ生えきっていないのか、元々薄いのかも分からないひょろひょろとした毛にも絡み付いている。狗飼は少年当主の凶暴な屹立を喉奥まで納め、可憐な腰から繰り出される蠕動(ぜんどう)に耐えていた。 「気持ちいいよ、羊一郎。こんなの、女の子のアソコじゃん。ぁ……っ腰、勝手に…………んっ」 「ぐ、んんんッく、」 「だめ、ボク、イきたくないよ羊一郎……羊一郎、だめ、だめ、喉ギュッギュッしちゃダメ……っ!」  清純な彼からは想像もつかない熟練した口技だった。怒りが快感に呑まれ、嫉妬がさらに快感を連れてくる。 「羊一郎、ダメ…っ!」  やはり言葉とは裏腹に、魅狼は白桃を思わせる尻を引き攣らせ、下半身のすべてを淑やかな唇の奥に押し込めんばかりだった。狗飼は口蓋垂を貫かれ、喉奥で傲慢な欲棒を締め上げた。溺れさせるほどの粘液が彼の器官を襲っても、結婚相手によく慣らされたらしい器用なこの青年は処理の仕方を心得ていた。魅狼は爆撃に似た射精の快感に浸る。暫くは喋れなかった。気の利く元執事、元ペットは大きな肉棒を最後まで舌の上に乗せて口から出した。そして周りを舐め、白濁を吹いた窪みを舌先で拭う。 「ぁあ……羊一郎、そんなの、どこで覚えたの?そんなの………でもいいよ、ボクの赤ちゃん飲んでくれたんだもんね。ボクの赤ちゃん、パパとひとつになれて嬉しいって。ボクの味した?」  機嫌を取り、顔色を窺うような上目遣いに魅狼の欲は間を置かず再熱した。威力のある放精直後にも関わらず、むくむくと(おぞ)ましい巨物は次を求める。

ともだちにシェアしよう!