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第十六章 家族
安藤邸から芳樹のマンションへ運び込まれた青葉の荷物の中に、その大切な封書と名刺は入っていた。
青葉の父が、生前彼に託したものだ。
「名刺を見せてもらっても、いいかい?」
「どうぞ。弁護士さんみたいなんですけど」
名刺には、『法律事務所』『弁護士』と前置きが付いた後、『倉崎 真司(くらはし しんじ)』とあった。
後は、電話番号などのアドレスだ。
「封書は開けずに、この倉橋氏へ渡そう」
「僕も、それがいいと思います」
青葉は、アポを取って芳樹と二人で彼を尋ねることにした。
「それにしても、この封書のことすっかり忘れてました」
「私が、人さらいみたいに連れてきちゃったからね」
「ホントですよ。でも、おかげで気持ちの整理がついてから、封書の秘密を知ることができます」
青葉はマスタングの助手席で、懐かしい父の筆跡を指でなぞった。
「倉崎 真司様、かぁ」
どんな人だろう。
そして封書は、どんな内容なんだろう。
思いを巡らすうちに、芳樹の運転する車は事務所に到着した。
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