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第十六章・3

「18年前、土門氏には双子の男の子が生まれました。だが……」  その兄弟は、第二性がΩだった。  αに生まれた長男は、すでに父の跡を継ぐべく、人生のレールが敷かれている。 「当時は今よりΩに対する偏見が強くて。土門氏は、一族に二人もΩがいるという事実を、隠したかった」 「それで、双子の片方の青葉を、加古さんに養子に出した、と?」  芳樹の言葉に、倉崎はうなずいた。 「財産分与なども、双子だと何かと面倒です。だから、双子ではなく一人だけ生まれた、と言うことにしたのでしょう」  そんな、と青葉は唇を動かしたが、声にはならなかった。  僕は、財産なんかいらないのに。  双子の兄弟がいるというのなら、彼と仲良く過ごせればそれだけで幸せなのに! 「この事務所の金庫に、当時の戸籍謄本が預けられています。それを土門氏に認めてもらえれば、青葉くんは土門家に入ることができます」  これはチャンスなんじゃないか、と芳樹は考えた。 「青葉、家柄や資産をやたら気にするお父様を説得するには、土門家に戻ることは好都合だ」 「待って。待ってください!」  青葉の小さな悲鳴に、二人の大人は口をつぐんだ。

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