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第十六章・6
「青葉、今夜は夕食はいらないから」
「どなたかと、お約束ですか?」
二人が何もできないまま、一週間ほどが過ぎていた。
「うん。帝都銀行の頭取さんと、会食」
は、と青葉の手が止まった。
それは、土門氏のことだ。
僕の、本当のお父様。
だが青葉は、明るく芳樹を見送った。
「そうですか。だったら、僕の夕食は手抜きができます」
「こら、ちゃんと食べるんだぞ」
芳樹がドアの向こうへ消えた後、青葉は瞼を伏せた。
「僕、どうしたらいいんだろう」
答えを見つけられないまま、家事に逃避する日々を送っていた。
芳樹は芳樹で、エレベーターの中で唇をへの字に曲げていた。
「本当は、頭取の息子さん、なんだよな」
なぜか、青葉に言えなかった。
双子のお兄様に会って来る、と言いにくかった。
青葉というものがありながら、お見合い相手と食事をする。
その罪悪感を持て余していた。
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