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第16話
男女と違って結婚というゴールがない以上、男同士の恋愛はいつだって期間限定だ。本気で好きになったとしても、いつか別れが来る。そう覚悟しておかなければ。
そんなふうに臆病になっていた祐樹を変えたのが、孝弘だった。
祐樹が逃げようと尻込みしようと突き放そうとぐいぐい追ってきて、その手を掴んで離さずに、とうとう祐樹を捕まえてしまった。
本気になるまいと目をそらす祐樹に、真正面からひたむきに好きだと告げて、その心を動かした。一生を誓おうと思えるまでに。
「どんな人?」
「とてもしっかりしてて、自立した人です。仕事ができて心が広くて料理上手です」
そういえば香港でエリック相手にも孝弘を自慢したな。孝弘はどうも、こういう運命になっているんだろうか。
「いいね、年上?」
「…いえ、4歳下です」
「年下? へえ、意外だな。そうかあ…」
東雲は楽しげにビールを飲み、ふたりの経緯を聞きたがった。
祐樹はゆったりとした気持ちで料理をつまみながら、訊かれるままに孝弘の話をした。東雲とこんな話ができる日が来るなんて、想像したこともなかった。
そもそも2日前に電話をもらうまで、もう一度会えると思ったことすらなかったのだ。
こんなことが起こるなんて、人生ってわからない。
いますぐ孝弘に会いたいな。
店のまえで東雲と別れて頭に浮かんだのは、そんなことだった。
もしも、いま、孝弘にとてもいい見合い話があるから彼と別れてやってくれと孝弘の親友(ってぞぞむか?)に頭を下げられたら、じぶんは一体どうするだろう?
ほろよいの祐樹はその想像に、ふっと笑う。笑えるじぶんがうれしかった。
答えはもうわかっていた。
絶対に何があっても別れない、だ。
かつて東雲をとても好きだった。
彼の将来のために別れてもいいと思うくらいに。じぶんのいない彼の幸せを祈るくらいに。別れと引き換えに彼に家庭や子供をあげたいと願うくらいに。
いまは孝弘を好きになった。
彼と将来を過ごすと決めたから、絶対に別れないと決意するほどに。
彼の幸せはじぶんが傍にいてあげることだと思えるほどに。
大切にしてだれにも譲れないと確信するほどに。
夜空を照らす月を眺めながら、祐樹は足取りかるく家に向かう。
出発まであと5日。
月曜日には孝弘に会えるのだ。
完
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
4連作、完結です。
感想、レビューなどお待ちしておりますm(__)m
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