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第15話
「じつは将来を誓おうと言ってくれてる人がいるんです」
東雲はその言葉を聞いて、目を瞠り、それから本当にうれしそうに顔をほころばせた。まるでじぶんがプロポーズされているみたいに。そして心から安堵したというため息をこぼした。
「よかった、本当に。俺が言うのはおこがましいとわかってるけど、やっぱりほっとした。祐樹にそんなパートナーがいてくれて」
ああそうか、とすとんと腑に落ちた。
おれはこれを言いに、きょう東雲さんに会いに来たんだな。かつて恋人だった男に、もう心配はいらないとそう伝えるためにここに来たのだ。
実際、東雲に会って、わかったことがある。
未練も後悔も彼のほうが大きかったこと、ないつもりだったじぶんもやっぱり未練を残していたこと。けれども今回会えたことで、それは昇華できたこと。
東雲と別れてから、祐樹は恋愛に消極的になった。
もともとそんなに積極的ではなかったが、さらに臆病になったと言ってもいい。
ひとり寝の寂しさから大学の同級生とたまにセックスする関係になったけれど、特定の相手は作らずに過ごしていた。
大学4年のときはサークルで声をかけられて恋人ができたが、卒業と同時に疎遠になった。
最初から就職で遠くに行くとわかっていた相手だった。楽しくて気が合ったが、のめりこみはしなかった。
社会人になったら、数年ぶりに中高一貫校の先輩だった大澤と再会した。大澤は頼りになる大人になっていて、彼と話すのは楽しくてリラックスできた。
祐樹にとっては信頼できて甘えられる相手で、食事に行ったり家を行き来するくらいに親しくなった。
セックスすることももちろんあったが、恋人関係にはならなかった。
東雲との別れを経験して、気持ちを預けて恋をするのが怖くなっていた。同性カップルなんていつか別れるのだから、期間限定だと期待しないと決めていたのだ。
北京で留学生だった孝弘と、そんな話をしたことを不意に思い出す。
あれはいつだっただろう。
……ああ、留学生の恋愛事情を聞いた時だ。
留学生の恋は帰国で終わる期間限定のものだという孝弘の話を聞きながら、祐樹はあの時、東雲のことを思い出していたのだった。
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