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第14話

 しばらく近況を交換し合ったあと、東雲がちょっと口調を改めて切り出した。 「俺はね、祐樹に会いたいとずっと思っていたよ。会って謝りたいって」 「謝る? どうして?」 「まだ20歳だった祐樹をとても傷つけた。あの時、祐樹は俺のために身を引いたとわかっていたのに、俺はじぶんの気持ちに手いっぱいで祐樹の心を思いやれなかった。簡単に言いだせることじゃないってわかっていたのに…。あんな言葉を言うべきじゃなかった」  その台詞で東雲がどの言葉を指しているのか、祐樹にはわかった。  ――そんな簡単に俺と別れられるんだな。祐樹にとって俺はその程度か。  別れ話の話し合いで、東雲が言った言葉。  簡単なんかじゃなかった。でも女性が相手では祐樹は戦えない。じぶんでは東雲にデメリットしか与えることはできないと思い知ったから、どうあっても別れるしかなかった。  祐樹の愛情からの別れ話に東雲は納得できず、そんな言葉をぶつけてしまったのだ。  でもそれを言わせたのはじぶんだと祐樹は思っていたから、東雲がそんなに気にしていたとは知らなかった。 「…むかしのことは忘れました」  穏やかに笑って許した祐樹に、東雲は切なげな表情で目を伏せた。 「ありがとう、祐樹。俺に家庭や子供をくれて。きみが譲ってくれた幸せだと思っている」 「それは違います。あなたが自分で作りあげた幸せです」  それでも今ならあの時の東雲の気持ちもわかる。  とても好きで信頼している恋人から、見合いして結婚したほうがいいから別れようなどと言いだされたら、どんな心境になるか。まだ心変わりしたから別れてほしいと言われたほうがましだろう。  そんな辛い話し合いを経て別れたけれど、でも7年が経ってこうやってまた会える日を持てたことに、祐樹は素直に感謝した。 「なんだか安心しました」  祐樹の言葉に、東雲は苦笑した。 「それはこっちの台詞だよ。…訊いてもいい?」  東雲はいたずらっぽい顔になって、笑いながら問いかけた。 「恋人がいるんでしょ?」 「そんな顔してますか?」  香港帰りに実家で達樹に言われたことを思い出した。そんなにしまりのない顔をしているだろうか。 「うん、わかるよ。仕事もいい感じなんだろうけど、情緒的に安定してる感じがするよ。愛されてる人の顔してる」  愛されてるなんてさらりと言われて、一気に頬が熱くなった。  …そうかな、愛されてる、かな。うん。  言ってしまおうか。

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