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第13話
水曜日の夜7時。
夜になっても7月の暑さはまったくやわらいだ気がしない。祐樹はジャケットを脱いで腕にかけてオフィスを出た。
待ち合わせは地下鉄の駅から近い創作和食の店だった。5分ほどまえに店に着いて、東雲の名前を言うと個室に通された。
新しい店らしく内装はどことなくアジア風で、ぞぞむが好きそうかなと思う。北京のカフェってどんなふうだろう。そんなことを思いながら、昔の男を待つなんて変な感じだった。
思ったほど緊張していない。
7時ちょうどに東雲が現れ、ほぼ7年ぶりの再会は意外なくらいあっけなく「お久しぶりです」「うん、元気そうだね」という言葉でその場におさまった。
別れたときよりも大人の落ち着きを増した東雲は、やはりいまの祐樹が見ても格好よかった。
会社帰りの祐樹に合わせてくれたのか、すっきりしたデザインのマオカラーシャツにジャケット姿だった。凝ったカットの上質なオーダーシャツにつき合っていた頃を思い出す。
ひとまず生ビールで乾杯して、いくつかつまみを頼む。
東雲は目を細めて、まぶしそうに祐樹を見つめた。
そこにかつての熱っぽさはない。
ただ懐かしむだけのやさしい視線。
「すごくきれいになったね、祐樹。とても大人っぽくなった」
「大人ですよ、もう」
思わず笑いながら答えると、東雲はふわりと微笑んだ。目元にきゅっとしわが寄る、その笑い方が好きだった。
「そうだね。もう社会人になって、…5年くらい?」
「ええ、6年目です」
料理が運ばれてきて、つまみながら会わなかった間の話をした。
祐樹が大学卒業後、社会人生活のほとんどを海外赴任、それも中国に赴任していたと知って、東雲は驚いていた。
さらに来週からまた2年間の中国赴任だと聞いてさらに驚き、そんな忙しいのに時間を作ってくれてありがとうと礼を言われた。
この7年間の東雲の話も聞いた。
見合相手と結婚して、ふたりの女の子に恵まれたこと。
3年前に海外のフラワーショーに招かれて以来、アレンジと生け花の融合といったイベントを定期的に行っていること。
じぶんの会社を2年前に立ち上げたこと。
もっと複雑な気持ちになるのかと思っていたが、話を聞いても胸が苦しくもならないし、嫌な気持ちにもならなかった。
あの時別れて正解だったのだと、だれかからお墨付きをもらったような気分になった。
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