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第1話

 夜が来るのが怖い。  怖すぎる。  始まるから、アレが。  初めてアレが始まったのは、ひと月だった  寝ていたはずの僕は目を覚ました。  ひどくいやらしい夢を見て。  夢の中で僕はいけないことをしていた。  とても、とてもいけないこと。    でも、それは淫靡な夢だった。  「ダメだ!!」  そう叫んだのはそれがいけないことだからで、夢の中でも僕はそれがわかっていて、目を覚ました。  夢でもダメだと思ったから。  でも。  でも、目を開けたはずなのに。    もう夢の中じゃないのに、夢は終わってなかった。  僕のパジャマははだけられ、ズボンは下着とともに膝の当たりまで下げられていた。  自分でしたのかと思い、真っ赤になったけどそうじゃないことはすぐにわかった。  「ああっ」  僕は喘いだ。  誰かが、誰もいないのに、でも、誰かが僕の胸を舐めていた。  乳首を丹念に舐められていた。  暖かな濡れた舌。   舐める音と、感触。  いや、僕の目の前で乳首は左右上下に動き、たまにおしつぶされる。  その感覚は腰に来るほど甘かった。  だが、恐怖がはしる。  何故?  何故?  肉体にのしかかる重ささえないのに、舌の感触だけがある。  そこにあるはずの頭を払いのけようとしても、何にも手は触れない。  でも目の前で乳首は形を変える。  根元がつぶされる。  噛まれている。  感覚だけでなく、目でもわかった。  歯形に乳首周りの皮膚が窪んでいたから。  痛みに悲鳴をあげ、なのに、もう勃起している僕の股間はその痛みに、先から零している。  噛みながら舐められた。  吸われた。  押しのけることも出来ないそれに、自分の腰だけが勝手に揺れる。  舐められる心地よさ。  吸われる切なさ。  噛まれる痛み。    反対側の胸の乳首も、見えない指が摘まみ始めた。  指で潰れ、回され、つまままれ、爪先で引っかくように弾かれた  「摘ままないでぇ・・・なめないでぇ」  僕は泣いて叫ぶ。  誰もいないのに。  でも僕の目の前で、僕の乳首は充血し、濡らされ、尖らされ、潰されていく。  「いや・・・いやぁ、誰か・・・だれかぁ・・・」  僕は叫んだ。  でも、一人暮らしのこの部屋で声は響くだけだ。  このもうすぐ取り壊しになるボロアパートには・・・もう僕しかいない。  僕も来月には出て行く予定なのだ。  「ああっ・・・あっ、はぁ・・・ああっ!!」  僕は鳴くだけだ。  別に何かに縛られているわけでもないのに、胸への感覚がすごすぎて立てない。  何より勃起した性器が痛い。  ダメ。   出したい。  ダメ。  怖さと快感が拮抗していた。  気がつけば、自分から胸を突き出していた。  まるで舐めて欲しいと強請るかのように。  濡れてガチガチになった性器を自分で扱き、何度も達しながら、胸をさらに苛めれたがってしまっていた。  自分で触ったこともなかった、胸にあることさえ忘すれていたそんな場所がたまらなく気持ち良かった。  「ああっ・・・いいっ・・・気持ちいいっ」  認めてしまえば。  溺れてしまうしかない。  胸を虐められながら、性器を弄るのは声を上げて、涎をたらして、そんな自分が気にならないくらい気持ちよかった。  でも。  終わらなかった。  出して出してだしても。  もう出なくなっても、舐められ、虐められ続けた。  「出ない出ない出ない」  泣き叫び、性器を弄るのを止めても、胸を虐めるのをやめてもらえない。    つらくて。  それでも気持ちよくて。  ついには出ないのに出した感覚を知った。  性器ではない場所でイく感覚は、高層ビルから突き落とされるような鮮烈さだった。  知る。  尖り充血し、勃ちあがったそこは。  胸にある性器だった。  本当の性器じゃなくてもそこでいける。  そこを夜が明けるまで、虐められ続けた。    のた打ち、身をよじり、うつ伏せになり、立ち上がろうとしても、そこをいじられることから逃れられない。  実体のないそれを振り払うことなどできない。  執拗に見えないそれ、触れることのできないそれ、姿のないそれは乳首を舐め噛み、吸い、摘み、弾き、潰し、あやし、苛めて、愛した。  見えないのに。  触れられないのに。  その感覚は現実。  そして、見えない舌が胸を濡らす透明な液体、見えない指に潰されたり、回される乳首の動きだけは現実だった。  指の形に胸の肉が沈むのも。  「許して・・・許してぇ・・・」  出ないのに出た感覚がまたして、僕は悲鳴をあげた。  夜明け、何度も何度も与えられた絶頂の果て、やっと僕は許された。  精液まみれの身体とシーツ。  僕はやっと終わったそれに、気を失うように目を閉じた

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