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蒸し暑さに体力を奪われて目を覚ました。
視界の先は見慣れない天井。
一瞬、ここどこだっけ。と辺りを見渡すと、規則正しい呼吸で倫太郎さんが寝ていた。
こもった暑さが、着ている服にじっとりと染み込む。
俺は額から滲み出る汗を拭うと、外の空気を吸いたくなって、玄関に向かった。ガラガラと大きな音を立てて開くので倫太郎さんの様子を伺うが、大丈夫。起きてないみたいだ。
外はまだ薄暗く、遠い向こうから朝日が僅かに差し込んでいるのが見えた。外は高い建物など一つもなく、黄土色の道と瓦屋根が続く景色を見ても、冷静でいれる自分に少し落ち込んだ。
夢だとよかったんだけどなあ。
しかし、早朝の空気は気持ちいいものだ。
心地よい乾いた風と、砂が混じっていない澄んだ空気。
俺は目一杯取りこんで伸びをすると、向かいの長屋の扉が開いた。
中からは水桶と柄杓を持った女性が出てきて、打ち水をはじめた。
俺は寝ぼけた頭でその様子を見ていると、女性が俺に気づいたようで「おはようございます。」と柔らかい笑顔で挨拶をする。
軽く会釈を返すと、女性はにっこりと微笑んで水桶を持ったまま井戸へと向かって行った。
まだ時間早そうだし、もうちょっと寝るかあ。
俺は大きな欠伸をして中に戻って行った。
「おーーい。起きろーー!」
「……ん。」
目を開けると倫太郎さんが俺を揺さぶっていた。
あれから何時間か経ったのか、空はすっかり明るくなっていて外の賑やかな声が部屋の中まで聞こえる。
「おはよ、ございます……。」
「おはよう。顔洗ってきな。今日は外案内してやる。」
はい。と手渡された着流しに袖を通すと袖が余った。
「倫太郎さん、これどうやって着ればいいの?」
畳に裾がつき、これでは完全に引きずってしまう。
俺はハテナマークを頭に浮かべながら、そもそも男はどっちが前だっけ?と左右の開きを交互に重ねた。
そんな姿を見かねた倫太郎さんは「ああ、違う違う。」と言って俺の着流しを掴んだ。
「お前、カリカリだな。ちゃんと飯食ってるか?余った裾はこうやってたくし上げて、その上から帯を結ぶんだよ。」
慣れた手つきで帯を結ぶと「本当大丈夫か?腰薄くね?」とおもむろに俺の腰を触り始める。
「倫太郎さん、それセクハラって言うんだよ。」
「セク……?なにそれ。」
難しい顔をして尋ねてくる倫太郎さんに「へんたーい。」とからかうように溢してから、俺は顔を洗いに行った。
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