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「はあ〜〜。90年後の男はこんな女々っちくなってんのか?」 ぼりぼりと頭を掻きながら俺の後を付いてくる。 「いやいや、これは無理でしょ。どこの心霊スポットだよ。」そうツッこむと、「え?なんて?」と倫太郎さんが聞き返す。 「何でもないよ。ていうか倫太郎さんが持ってるそれ何?」 俺は、倫太郎さんが抱えている大きな壺を指さした。 家を出た時から気になっていたが、何のために壺なんか持ってきたんだろう。 俺がそう尋ねると「これはカメだよ。」と言って持っているカメを軽く叩いた。 「亀?」 「カメね。そんなタライだけじゃ足りないだろう?これに入れとけば数日は汲みに来なくていいから。」 なるほど。そう言うと「これからは頼んだぞ!」と俺の背中をポンと叩いた。すると倫太郎さんは慣れた手つきで、タライとカメいっぱいに水を入れる。 「これだけあればいいかな。さて、戻るぞ。」 俺の太腿辺りまで大きさのあるカメをひょいと持ち上げた。もちろん中身は満杯だ。 「めっちゃ重そう…。」と倫太郎の腕を見ていると、俺の視線に気づいたのか、タライ一つで腕を震わせている様子を見て「しばらくはこいつで鍛えられるな!」と笑った。 「あ〜〜〜〜重かった!てか遠い!」 中身を溢さないように、慎重にタライを床に置く時が一番しんどかった。 これは筋肉痛確定だな。とパンパンになった腕を叩いてほぐしていると、流しに食器がいくつも重なっているのが見えた。 そうだ、これ片付けなきゃいけないんじゃん…。 はあ〜、と大きなため息を吐くと「ため息は幸せが逃げるぞー。」と奥から倫太郎さんの声がした。 俺は「はいはーい。」と適当に返事を返して大人しく目の前に重なる食器を洗い始めた。 泡立つ食器を見つめながら、こんなしっかり家事するのいつぶりだろう。とふと、過去の記憶が蘇る。 今は実家暮らしだが、じいちゃんが死ぬまでは店の二階で一緒に暮らしていた。 かなり年齢もいってたから、介護も兼ねるつもりだったがじいちゃんは歳のわりによく動いて、よく俺を叱った。 仕事も日常生活もずっと一緒にいたから、飯の味付けがどーだの、店の掃除の仕方があーだの。何事も口酸っぱく言われたのを思い出す。 毎日うんざりしていたが、何の感情の起伏もない今の生活と比べりゃ、よっぽど充実していた。 結局その後、二階には遺品の整理で入ったっきり。 今頃掃除する気にもならないし、もしじいちゃんが化けて出てきても怖いし。 俺は長年の染み付いた手つきで洗い物を済ませていった。

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