14 / 14

1年後

 もう1年となれば、『神田川』のボーイも慣れたもん。 常連さんとも冗談を交えて話し、心の底から笑えるから楽しくて仕方がない。 最近はレオさんのボイトレの成果が出てステージでたまに歌わせていただいている。 オリベがまた良い感じにギターを鳴らして煽ってくるから、調子に乗っちゃうんだ。  あと一番変わったことは考え方かな。 ネガティブがポジティブになったとは、一概には言えないけど。 イヤなことがあっても、まぁいっかってすぐ切り替えられるようになった。 いつも気持ちは穏やか。 だって、居場所があるから。 みんながいるから。 それにオリベがいるから。  「シノブ、プレゼントや」 シノブになって1年、僕の1歳の誕生日だって言ってオリベは緑の箱を渡してきた。 僕は過去世を慰めるためにホ・オポノポノを紙に書いていくのを習慣にしている。 "ありがとう、愛しています、ごめんなさい、許してください" この言葉をひたすら書いていくだけで気持ちが楽になる。 もちろん、教えてくれたのはオリベ。 水がインクになっているペンをあの後にくれたんだ。  ワクワクしながら箱を開けると、クリスタル軸のペンだった。 青と緑がキラキラと光る綺麗な軸に見惚れる。 「書いてぇや……インクがおすすめやのに」 赤髪のショートのオリベは逆に若返っているみたい。 ぷくっと頬を膨らませてかわいい。 ありがとうと書くと濃い青色。 愛していますは淡い青色。 でも、ごめんなさいは赤紫。 許してくださいは赤色でかなり滲んだ。 「色が変わるんだ」 まるで魔法具だ。 「マロウブルーっていう色が変わる紅茶の色素をインクにしたやつやで」 オリベは後ろから抱きしめてきて耳元で囁く。 「アイスブルーっていうてみ?」 穏やかに言って僕の耳殻を食むから、僕は思わず喘ぐ。 「はよ……」 「ア、イスッ……ブ、ルー」 "ゆ、許して……お願い!" 若い女性の声がしたけど、すぐに消えた。 すると、4つの言葉がピンク色に染まった。  「俺からのとっておきのプレゼントや」 舌が耳の後ろを滑り、首元に噛みつくオリベ。 「あっ……アアッ」 こうなると僕はもうダメなんだ。  ここに来て、再開したことがある。 それはファンタジー小説を執筆すること。 高校の時、かなり上手い方だったんだ。 それは切磋琢磨し合う仲間がいたから。 作風が良く似ていたから、わかり合えていたし。 でも、試しに読んでもらった作品を盗り、大会に出した彼女は最優秀賞を取った。 『あなたが真似したのよ』 彼女が好きだった色は赤だったな。 「アイスブルー」 僕はオリベの愛に溺れる決意をして身体の力を抜いた。 "あの時はごめんなさい。ああするしかなかったの。お願い、許してください" 「お前はほんま……好きやわ」 僕はオリベに抱かれてベッドへ連れていかれた。 どうにでもして……オリベ。 僕はもう穢れてなんかいない。 君と同じくらい……クリスタルのように綺麗なんだ。           おわり

ともだちにシェアしよう!