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穢れた僕を
僕は今から自殺する。
看護学校の屋上で星空を見ながらそう覚悟を決めた。
「クソ鳥羽を死ぬまで呪ってやる……地獄の果てまで」
鳥羽先生は僕の担任教師……前も留年してからもずっと。
基礎科目と専門の知識の成績はクラスで1番、でも看護技術は苦手な僕。
たくさん練習をして技術試験を受けて合格したはずが、なぜか再試験にされる。
それはベテラン教師のあいつが僕を嫌いだから。
「ベッドメイキングに15分以上掛けて、こんなに乱れてるの? あなたが寝るならお似合いね」
「マンシェットをこんなにきつくして……患者さんを殺す気!?」
淡い黄色の縁のメガネのレンズを割ってやろうと何百回思ったことか。
それに、進級に必要な実習の担当教師になったあいつは達成不可能な目標を課し、出来ないと叱責する。
「あなた、一生看護師になれないわよ……私がさせないから」
向いていないと言われた方がまだましだ。
そのせいで2年目の1年生になった僕をあいつは追い詰め続ける。
新しいクラスの男子は僕1人……女の園だ。
だから、それを味方にして無視をするようになった。
誰も組んでくれないから技術の練習さえ出来ない。
授業すらままならなくなった僕にピリオドを打ったのは再実習で潰れる夏休み。
「全然ダメ。紙の無駄ね」
記録の山を寝ずに書いたのに、全否定をして書き直しをさせる。
「この学生は問題児ですが、大目に見てくださいね……何かあったら私にご相談を」
患者さんに悪いイメージを吹き込むのも加わった。
「イヤなら死になさいよ……死ねるもんならね」
わかったよ、やってやるよ。
実は僕、黄金の血なんだ。
抗原をひとつも持たない血液で、確認されているだけで50人もいない。
誰にでも輸血出来る分、自分に何かあったら確実に死ぬ。
その性質があったから、看護師を目指したんだけど。
まぁ、もうどうでもいいや。
「さよなら、天使になれなかったクズ」
せめて白衣の天使になった気分で死にたいから、全身白の実習着のまま、端に立った。
そして、ゆっくりと前に体重をかけていく。
僕は自由だ。
「ちょっと、何してんねんな」
聞き覚えのない声と共に身体を後ろに引かれて、思わず尻餅をつく僕。
「あなたこそ、何するんですか!?」
左手で頭、右手で尻を撫でながら振り返る。
青のサングラスを掛けた男性がキラキラした指輪を2個付けた右手で白くて長い髪を梳いていた。
問題なく、うちの看護学校の服装の規定違反をしている。
「いやぁな? 落ちそうになってたから助けただけやで?」
悪気なく、ニヤリと笑う彼。
「自分で落ちようとしてたんです!」
僕は初めて感情を爆発させた。
「なんで?」
それなのに、純粋な疑問のように言われ、僕は詰まる。
「まぁなんでもいいんやけど……ちょっと付き合ってくれへん?」
サボらして? という言葉を聞いて、彼の正体がわかった気がした。
「もしかして、死神ですか?」
合っても、合ってなくても変な人だ。
「似てるけど、ちゃうなぁ」
彼は目元にシワを寄せて口角を上げる。
「悪いようにはしないからさ、カラオケに行こ?」
奢るから、なんて言われたから、思わずうなずいてしまったんだ。
最後に最高の思い出ぐらい、作ってもいいかなって。
彼となら、許される気がした。
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