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シノブ
「鳥羽由和 ……やることが人間ちゃうわ。きっと猫被りのカラスや」
さっきあったばかりなのに、全部話してしまった。
拙い僕の言葉に口角を上げながら大きくうなずいてくれるから。
左耳には3つ、右耳には2つ付いた金色の太いフープピアスを上下に揺らす彼……オリベ。
「シノブ、えらいわぁ……よう頑張った」
不良の装いをしているのに、高い声とふわふわな口調で話して、頭を撫でてくれた。
なんか癒される。
幼なじみみたいなくらいフレンドリーだし。
あっ、シノブというのは、僕の新たな名前。
言偏に寺、仁義を持ちますように、で詩仁 はなかなかの名付けセンス。
でも、1回死んでんねんからってハハハと棒読みで笑うオリベをみたら、僕も久しぶりに笑った。
そして、僕の手を程良い強さで握ってるオリベは軽く前後に振っている。
ヒンヤリ冷たいけれど、8月特有の蒸し暑さを弱めてくれるからとても心地いい。
僕はずっと看護師になるために勉強ばかりしてきたから、恋愛経験はゼロ。
そうなると、19歳のくせに童貞だということがバレるのが恥ずかしい。
早くカラオケ店に着いて欲しいような、もう少しこのままでいたいような……どっちにしても心臓が破裂しそうだ。
まだ友達にもなっていないのにね。
"夢ならば どれほど 良かったでしょう"
人気過ぎて誰もが1度挑戦しては挫折する曲をトップバッターで余裕たっぷりに歌い始めたオリベ。
それだけで驚いたのに、次は懐かしいトイレの女神の歌を優しく撫でるように歌うギャップに酔いしれる。
もっと聴きたくなった僕は歌謡曲の女性歌手の歌をどんどん入れていく。
スイートピー、コスモスと、1人の女性の人生ドラマを見てる感覚に陥り、幸せだと思った。
僕も幸せになりたいな。
「俺ばっか歌ってるやんかぁ、シノブも歌わなあかんでぇ」
オールする勢いでオードブルだけじゃなくてお酒も頼んだから、緑茶割りを2杯飲んだオリベはふわふわ度が増している。
「僕下手くそらから、いいろ!」
元々弱いくせにノリで梅酒をグビグビ飲んだ僕は敬語も取れた上、滑舌が悪くなってきた。
19歳だけど、あと1年だからと練習のために何度か飲んだことがあるんだ。
でも、全然飲めないから、オリベに勧められた梅酒にした。
「1曲だけでええから、なぁ?」
「ほんあにい〜きょうく、だけやからな!」
人見知りなはずなのに、オリベの人柄に惹かれて心を開いた僕は関西弁で宣言した。
すぐさま十八番を入れ、千鳥足で立ち上がる。
"会いたくて 会いたくて この胸のささやきが"
酔っているからか、音痴が強まるのがちょっと恥ずかしい。
でも、うっすらと聞こえたハモリで音程のラインがわかるようになってきた。
「オリベ、一緒に歌おうよ」
間奏中に笑顔を向けて言うと、ええねぇと優しく微笑み返してくれた。
「次、これにする?」
「こっちも好きやなぁ」
それからくっつきながら曲を相談し、歌う時は肩を組んで左右に揺れながらデュエットする僕ら。
「梅酒うまい?」
「ほぼ、ジュース」
「ちぃと飲ましてや? 俺のやるから」
昔からの友達のようにお互いのジョッキを飲み合い、食べ物はアーンし合う。
何年振りかわからないほどはしゃいでしまったけど……1回死んだからいいよね?
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