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ラシャくん

 オリベと出会ってから1ヶ月になる今日はバーはお休み……それはオリベがいないから。 『まっさらになおしてくるから、いい子で待っとってな?』 夢とうつつの狭間だったけど、確かにオリベだった。 キスが誰よりも優しかったから。 だから僕も綺麗になるために準備しなきゃなって思ったんだ。 頼る人は消去法で決めた。 人間の血を受け継ぐラシャさんだ。 バーでは先輩のボーイだから、たくさん仕事は教えてもらってるし、学んでて楽しい。 でも、これはどうなんだろう。 ただ、他の人よりは確実にましだから。  トントン 「あいあい」 相変わらず快活な声が響く。 僕は震えた手でドアノブを開けて、そろりと入る。 「急にお邪魔してすみません。あのですね」 畏まって話すと、ラシャさんに噴き出して笑われた。 「ここ大企業かっ! なんや、社長のオレに土下座するくらいヤバいことしでかしたんか?」 顔ガチガチやで?と大笑いするから、僕を気が抜けてしまう。 「大丈夫やで? オレは無理矢理吸う趣味ないからな」 つぶらな瞳を煌めかせて、八重歯が出るくらいに思い切り笑うラシャさんの顔にどこか母親のような安心感に包まれる。 「アレやろ? オス同士が繋がるための下拵えを教えて欲しい……合ってるか?」 なんで言わなくてもわかるんだろう。 「他のやつは実践込みで教えそうやもんな。ええよ、特別に優しく教えたるわ」 ニッと笑うラシャさんは本当に信頼出来るな。 「よろしくお願いいたします」 僕も口角を上げたんだ。    相手はアサギさんでもスオウさんでも、コハクさんでもない……オリベだって決めた。 だから、ラシャくんの手解きを丁寧に愛情を込めてやる。 出すところに挿れるなんて、知らなかったな。 未知の世界でちょっと怖かったけど、そのたびにラシャさんが励ましてくれた。 『大丈夫や、お前なら出来るから』  腹を据えた僕は白の実習着を着る。 「ほぇ~白衣の天使やわ」 ラシャくんは感嘆するように言ってくれた。 患者さんを救う看護師さんにはなれなかった。 でも、大切な人を助ける天使にはなれる。 今度は僕が助けるからね、オリベ。  夕方、パーティー用のカラオケルームでアサギさんとコハクさんとスオウさんとラシャさん、そして5人でババ抜きをする。 もちろん、僕はスオウさんとラシャさんの間。 アサギさんもコハクさんも最初は不服そうにしてたけど、今は楽しそうだ。 「あ! ええ……ちょっ」 意外にも顔に出るのはスオウさん。 アサギさんはクールな表情で読めない。 コハクさんはジョーカーが来た時に汗を拭きまくる。 「よいしょ! ほいさ、シノブ!!」 ラシャくんは今日ずっと一緒にいたから、ちょっと暑苦しいかな。 でも、信用できる。 「あいさ! スオウさ~ん、どうぞ……?」 僕も移った快活さでカードを取り、ささっと混ぜてスオウさんへ向ける。 妖しい笑みを浮かべて。   「ごめん……かなり待たせてもうたな」 スオウさんが最弱を更新している時に弱々しい声が聞こえてきた。 そこには 闇に染まったような黒い髪に裸眼 血が飛び散る白いパーカーを着た オリベが困っった顔をして立っていた。 「はぁ~めっちゃ重いわぁ」 はよ持ってってとソファに座っていたスオウの前に保冷ボックスを置くオリベ。 「コハク、アサギ……食いかすでええなら玄関にあるで」 その言葉に2人とも目をギラギラさせる。 「獲物じゃ~!!」 歪んだ笑みを浮かべて、部屋を出て言った。

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