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想像力

「ねえ、皐月(さつき)。それ、一口ちょうだい。」 「ん。」 無言で差し出したのは生クリームの入ったメロンパン。 「ん〜〜やっぱおいし〜〜!」 駿太(はやた)は口元を緩ませて美味しそうに頬張る。 購買戦争に負けて残ったこれを選んだのだが、駿太には悪いけどこのパン、生クリームが甘すぎるから好きじゃないんだよなぁ。 「全部やるよ。」と袋ごと差し出すと「いいの?!」と飛びつく勢いで食べ始める。 「駿太、これ好きだったっけ?」 「うん。でもこれ食べ過ぎると太るんだよねぇ。」 へへ。と笑いながらお腹の辺りをつまむ。 駿太が頬張っているメロンパンは、パンの何倍も甘いクリームが入ってる上に、上のカリカリの部分は大粒のざらめがたくさんついている。 確かにカロリーはすごそうだ…。 昼飯というよりデザートだろ。となどと考えながら俺はもう一つ買ったパンの袋を開けて、口元に持っていくとなにやら目線を感じた。 「なに?」 「えっ、なんでもないよ。」 まさかこれも欲しがらないだろうな。なんて思いつつ一口食べるとごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。 駿太の奴、どんだけ食い意地張ってんだよ。 「これはやらんぞ。」 「んえ!?あ、ああ!いらないよ!」 あからさまに挙動不審な態度を取る駿太を横目に、「ああ、そう。」と言って食べ進める。が、駿太の視線が気になってしょうがない。さっきからちらちらと俺の口元を気にしている様子。 これを自覚するのは恥ずかしいが…。 まさか。と思い、食べているウインナーパンと駿太を交互に見つめると、何かに気づいた表情を見せる。 俺はすかさず目で「最低。」と伝えた。 「人が普通に飯食ってる時に、そーいう目で見てくんのは引くわ。」 「ち、ちがっ!別にそーゆう目で見てなんか!」 「はいはーい。どうせ俺はエロい食べ方しかできませんよー。これだって駿太のちんこだと思って食べてましたよー。」 なんて冗談で言ったつもりだった。のに、 「おまっ、なんで勃ってんだよ!!」 「だ、だって皐月がお、俺のとか言うから!」 「あほか!冗談に決まってんだろ!馬鹿!早くしまえ!」 「し、しまってるよ!」 中学生か、こいつは! ガツガツと男食いをして一気にウインナーパンを食べきると「ねえ…。」と駿太が話しかけてきた。 「なんだよ。」 「ほんと、恥ずかしいんだけど、キスだけさせて……。」 「…………。」 呆れて言葉が出なかった。 俺の彼氏はウインナーパン一つで興奮してしまうのか。 「やだよ。」とそっぽ向くと「え〜。お願い〜!」と俺の肩を揺さぶる。 「俺、こんなんじゃ教室戻れないよ…。」 確かにそれで戻ったら大問題だ。 でも、だからといってキスを許すわけではない。 駿太から背を背けると「泣いちゃう…。」と呟いたのが聞こえた。 おーおー。泣くなりなんなりしろ。 しばらくつんとした態度を見せると、駿太は大人しくなった。あまりに後ろが静かなので身体の向きを変えると、ひどく不機嫌な様子を見せる駿太がいた。 「キスくらいしてくれてもいいじゃん。」 まだ諦めてなかった駿太は、俺の腕を力強く掴んだ。 ひゅ、と息を飲んだ俺は「ストップストップ!」と言って駿太の動きを制する。 「分かった、分かったから!キスすりゃいいんだろ!」 俺のその言葉を待っていたであろう駿太は、満面の笑みへと表情を変えた。そして、俺の腕を掴んでいた手は次第に肩へ上がってくる。 「ん、」 軽く触れて、すぐ離れた。 「もういいだろ。」そう言いかけた瞬間、視界いっぱいに駿太の顔が広がる。 「ん、んぅ…!?」 もう一度キスされた。そう気づいた時には駿太の両手が俺の背後にまわり、右手で襟足を撫でた。 くすぐったさから思わず笑ってしまいそうになるが、深く口付けられているため、代わりに鼻から抜けるような声が漏れる。 「ん、ふっ…。」 僅かな隙間ができた時、駿太はあっという間に舌を絡めとっていった。完全に油断してた俺は、駿太についていくのに精一杯で肩をぎゅう、と強く掴む。するとそれが駿太を煽ったのか、後頭部を強く掴まれてより深く口付けされる。 「えぁ……、あっ、んぅ、んっ。」 いくら人のいない屋上とはいえ、学校でキスするのは恥ずかしくて、ぐいぐいと駿太の胸を押す。すると押していた手も絡め取られてしまい、そのまま後ろのフェンスに押し付けられてしまった。 そしてもう片方の手で、スラックスの上から俺の中心を揉みしだいてくる。 「あっ、駿太、そこはっ。」 「だめ?」 「ん、だめ、だってば……!」 俺のを撫でる駿太の手首を掴むとあっさり離れてくれた。 しかしその手は俺の頬に添えられて、小指の先で耳の裏を優しくなぞる。 俺がびく、と肩を上げると絡めていた舌を軽く吸ってきた。 「ふぅ、んっ、んぅ、んぁ…。」 ずるずると上体がずりさがってきたところで、ようやく駿太が唇を離す。 俺の両頬に手を添えてもう一度軽くキスすると、ふふ。と笑って駿太が立ち上がった。 「よーし!続きは家でしようね!」 「…は?」 「いやいや、しないから。」と真顔で言ってみせるが、放課後強引にその気にさせられたのは、また別の話。

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