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春の粉

「くしゅんっ。」 「毎年辛そうだね。花粉。」 「う"る"ざい"……。」 一番嫌いな季節は、と聞かれたら真っ先に春と答える。 花粉症の俺からすると滅んで欲しいくらいだ。 かみすぎて赤くなった鼻を擦って、気休めにもならないマスクをつける。 「皐月を見てると花粉症じゃなくて良かったって思う。」 「お前それ喧嘩売ってるだろ。」 花粉症の人間に対して言ってはいけない言葉をさらりとこぼす駿太を睨むが、本人は気づいていない模様。 こいつ、いつか絶対に同じ目に合わせてやる。 薬を飲んでいるものの俺は特に酷い方で、鼻だけじゃなくて目も、頭までぼーっとしてくる。授業中なんかは知らない間に寝ていることもしばしばあって、駿太にノートを見てせもらう始末。 「今日もノートいる?」 「すまん、貸してくれ。」 駿太に世話になるのは癪だけど、今の季節だけはしょうがない、と割り切るようにした。のだが、 「はい。」 身体を俺に向けて両手を広げてくる。 「やだよ。制服に花粉ついてるし。」 「いいじゃんこれくらい。毎回貸してあげてるんだから。」 こうして見返りを求めてくるようになった。 やけに優しいなとは思っていたけど、まさかこういう目的だったとは。 「うわ、やめろ。近寄んな!花粉が飛ぶ!」 「えーちょっとだけー。」 「馬鹿野朗!っくしゅん。」 「……皐月ってさー、見た目の割に可愛いくしゃみするよね。」 「はあ"?」 じりじりと近づいてくる駿太。何となく嫌な予感がして、一歩ずつ後ろに下がる。 「目、掻きすぎて赤くなってるのとか鼻声なのとかさ、えっちしてる時の…「おいやめろ。」 どうせそんな事だろうと思った。 学校でなんて事言いはじめるんだと駿太の口を塞ぐ。 「だってそうじゃん!ぼーっと虚ろな目でいるのとかさ!泣いてるみたいな感じで話しかけてくるのとかさ!勘弁してよ!」 「いやいや勘弁してほしいのはこっちだから!」 どん、と駿太の肩を押すとその勢いで手首を掴まれた。 そのまま背中を壁に押し付けられて、脚の間に駿太の脚を差し込まれる。 「なんかしたら怒る。」 「なんかって?」 「……それはっ。」 言うのを躊躇っていると、マスクをずらしてキスをしてきた。何度も角度を変えられて、息をする間も与えられない。鼻で息が出来なくて口を開くとにゅる、と駿太の舌が入り込んでくる。 「んぅっ!んっ、んーーーっ!」 苦しくて思いっきり駿太の肩を叩く。 これ以上は、まじで……… 「う"っ……。」 限界を感じて駿太のみぞおちに一発、拳を入れた。 ずるずると目の前で崩れ落ちる駿太を見下ろす。 「てめぇ…殺す気か!」 「ちょっと、今割とガチで殴ったでしょ……。」 「当たり前だ!こっちは鼻詰まってんだよ!」 必死に口から酸素を吸い込む。 力加減しずにグーパンした俺もいけなかったが、今のは完全に駿太が悪い。キスで死ぬとかどこの笑い話だ。 「しばらくはキス禁止。」 「それ以外ならいいって事?」 「は?!ちっげぇよ!」 「はいはい。」 「次なんかしてきたらまじで怒るからな!」 「はいはーい。」 「聞いてねぇだろてめえ!っくしゅん!」 校舎の隅で俺の怒鳴り声と、くしゃみが静かに響いた。

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