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第19話
水面から反射する光が、銀の瞳を柔らかく刺した。
「船旅の疲れは取れたか、エィウルス」
見れば先を行くディーグが笑っている。
「心臓を一突きされて生きてるなんざ、やっぱり二つの心臓だったんだな。おまえ」
まったく、狂ってるよ。笑って、後から続く男達がエィウルスの肩を叩き、笑う。
「船頭に礼を言ってくる。お前らは先にいけ」
「おまえも試してやろうか?」
すれ違いざまディーグは笑って、その胸を拳で叩き、エィウルスの元まで歩み寄る。
人々が行き交う中、エィウルスは辺りを見渡した。
荷物を馬車に乗せる者、果物や野菜を売り買う人々。
「ここが、吸血の大陸なのか?」
「あぁ、だがここには人間しかいない。奴らは、もっと奥、巨大な城を構えてお暮らしになっているんだとさ」
別の男が、巻かれた紙を広げ、指をさす。
「この、紋章が描かれた場所が城だそうだ。その周りを、大勢の人間が囲うように暮らしている」
「滅多矢鱈と、お出ましにはならない、おまえにとっては暮らしやすい場所だ。で、ここ」
ディーグが示すのは、地図に描かれた、大陸を分断するかのような黒い線。
「神の裁き、とこの大陸の者は呼んでいるらしい。何もない谷。ここが、行き先だ」
「神の…裁き」
繰り返したエィウルスの肩を、ディーグは抱いた。
「行こうぜ、その楽園」
「ああ」
エィウルスは、息を深く吸い込んだ。
血の香りは、どこからも漂うことは無かった。
終
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