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結ぶ(31)

「社長、午後2時からの会議は先方の到着が遅れる為、30分ずらしてよろしいですか?」 「分かった。じゃあ14時半スタートで。」 「承知いたしました。 檸檬君、手配よろしく。」 「はいっ!承知いたしました!」 いつもの慌ただしい毎日が始まる。 クールな秘書の日常が戻ってきた。 ただ、少し違うのは… 「黒原さん、首でも寝違えたんですか? さっきから気にされてますけど……」 「えっ!?…あぁ、そうなんだ。 朝起きたらちょっと……」 「気を付けて下さいね。俺もやっちゃって、治るまで暫くかかりましたから。」 「うん、ありがとう。気を付けるよ。」 疑いもなく純粋に俺を心配してくれる檸檬君は、社長に呼ばれて席を立った。 そうか…無意識に触れていたのか。 首や胸元に残された、ニールの所有の印に。 離れていてもそれに触れるだけで、ニールを感じる。 「黒原っ!」 「はっ、はいっ!」 (口元が緩んでるぞ) ハッとして社長を見上げると、何か言いたげにニヤニヤと笑っている。 「お前のそんなレアな顔を見たら、卒倒する輩が出るかもしれん。 クールビューティは返上するか? まぁ、その方が人間っぽくていいけどな。」 「…気を付けます…」 以前なら食ってかかっていたけれど…揶揄う満に腹が立たなくなったのも、大らかなニールの影響かもしれない。 「さぁ、今日もさっさと片付けて定時に帰るぞ! 檸檬、今夜はハンバーグが食べたい。」 「全くお子ちゃまだな。社長、公私混同はお止め下さいね。ただ今勤務時間中ですから。」 「れもぉーん、黒原が虐めるぅっ!」 「…社長、この書類にハンコお願いします。」 「檸檬まで…」 拗ねる満を叱咤激励して社長室に誘導する檸檬君にピースサインを送り、コーヒーをひと口飲んだ。 ハンバーグか。 いいな、ウチもそうしよう。 喜ぶニールの顔を思い描きながら、仕事モードに入っていく俺なのだった。 (了)

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