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獣 9

 「初めて彼女が出来た。初めてのセックス。舞い上がってるのはわかる。だが、よく考えろ。この世界にはもっと可愛い子がいるかもしれないんだよ。もっと気持ちいいセックスもあるかもしれない。何よりも、いろんな子と付き合いたくなるじゃないか。世界の半分は女なんだぞ!!この世界はたくさんの可愛い子で溢れてるんだ。一人に縛られるなんて愚かしいじゃないか。だから同棲まがいはやめなさい」  師匠が最低の説教を始めた。  兄貴の説教は棚上げだが正しい。   だから聞く気がしないし、聞いても反省せん。     それはそれで腹が立つけど、この人の説教は聞けば聞くほどあかん大人ってこういうのやな、こうなったらあかんなと真面目に自分を反省出来るのでいいかなって思った。     「わかった。わかった。ちゃんと家に帰るし。でも・・・今日は約束してるからそれ終わってから帰る」  僕は素直に頷いた。  いけないいけない。  こんなひどい大人にならないように、ちゃんとしなければ・・・。   「約束?」  兄ちゃんが言う。  「うん。恋人と、今一緒に調べてることがあって、人に会わなあかんねん」  猫殺しの家に直接押しかける予定やった。  もう名前も住所も割り出し済みや。  まずは会うてから考える。  何なら直接警察に差し出してもいい。  そこで疑問に思う。  「兄ちゃん達もなんでこんなとこにおるの。僕のためだけにわざわざ東京から来るなんてことはないやろ」  それはない。  そこまではしない。  絶対。  この人達は金になることしかしない。  僕なんかのためには死にかけてても動かない。  何かのついでや。   ついでで車の窓割って、ついでで地面に身体叩きつけるのがうちの兄貴や.  「オレ達は一緒に仕事しているヤツが必要な本があるからそれを取りに来たんだよ。オレ達も待ち合わせだよ」  師匠が笑った。  「ふうん・・・」  こんな町に本て。    僕は首を傾げた。  あかん、駅前の噴水のとこで待ち合わせやったのに・・・、 アイツ待ってるんちゃうか。  「僕、待ち合わせ場所にもどらな」  僕は言った  「オレ達も行くか」  師匠が兄ちゃんに言った。  「ちゃんと家に帰れよ、半人前!!好きな子を大事にしてやろ思うんやったらちゃんとまず一人前になれ」  兄ちゃんがえらそうに言うのにムカついた。  待ち合わせ場所に向かった。  歩道橋から噴水が見えた。  僕のスタジャンを抱えてオロオロしているアイツが見えた。  必死で辺りを見回してる。  拾ったんや。  僕のお気に入りの和柄の桜吹雪のスタジャン。  「最悪のセンスやな。ドヤンキー趣味この上ない」  とアイツに酷評されてるヤツや。  アイツ・・・。  それ拾って僕に何かあったと思ったんや。  実際なんかあったけど・・・心配することないて言ってあげな。  僕は駆け寄ろうとした。  「・・・アレじゃないですか。タカアキが言っていた子の特徴に似てる」  兄ちゃんが師匠に言っている。    兄ちゃん達も待ち合わせって言うてたな。  兄ちゃんが伸ばした指の先が気になった。  それは・・・アイツを指していたからだ。  「大人しく渡してくれるかな?」  師匠がアイツを見ながら首を傾げていた。  「まあ、無理やりでも・・・貰いますけどね」  兄ちゃんが凶悪に笑った。  僕はアイツに駆け寄ろうとしたんをやめた。    兄ちゃん達は・・・限りなく違法に近い仕事をしている。  正しくは「訴えさせなければ違法ではない」レベルでの仕事をしている。  この二人には暴力は商売道具だし、だから僕を誘ったのもわかっている。  アイツにその暴力を向ける気なんか。  頭の中が焼ける。  あかん。  絶対ゆるさん。   最悪なタイミングでアイツが僕を見つける。  安心したような顔をして・・・こちらに向かって走ってくる。  僕の無事に泣きそうな顔をして。  「おっ、こっち来たぞ」   師匠が呑気な声を出す。  「あれは走ってるんですかね?」  兄ちゃんが不思議そうに言った。  「信じられない位遅いな」  師匠が感心したように言った。  運動能力が低すぎてアイツはほとんど走れない。  つまりアイツは逃げれない。  僕は瞬時に判断を下す。  「タクシー乗って帰れ!!」   僕は叫んだ。  あの屋敷はセキュリティー万全や。  化け物セコムが完備してある。  師匠や兄貴でもどないも出来へんはずや。  同時に兄貴と師匠にむかって僕は攻撃をくりだした。        

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