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殺意 3
「お前が行ったら怪しまれるだけやろが」
アイツが僕を冷たい目で眺める。
僕はアイツが拾って持って来てくれた、和柄のスタジャンに和柄ジーンズだった。
黒いスタジャンに背負う花吹雪。
ジーンズにも桜吹雪が刺繍してある。
僕は大変これがお気に入りなんやけど、アイツはこの恰好があかん言うねん。
この街やったら標準仕様やで。
僕は底辺校の生徒らしく、茶髪にピアスをしている。
意外とボクシング部はそういうの緩いんよ。
学校にさえピアスしてこんかったらって、でも僕は試合以外はピアスしてたけどな。
「アホ、相手はええとこの子やろ。お前みたいな、いかにも街で遊んでますみたいな恰好したヤツが家に来たら、まず親が絶対に合わせてくれへんわ・・・ホンマ、下品なセンスやな、お前」
アイツがため息をつく。
いや、格好については、ダサダサなお前には何も言われたないで?
お前なんかいつも制服か、判で押したようなトレーナーとジーンズやん。
しかも目立たないようにするつもりで黒しか着んから、全身黒で、結果、メチャクチャ目立ってるやん、
お前の素材はこの上もなく愛しているけど、お前のセンスも最悪やで。
「オレはええんや。オレは目立たんかったらそれでええんや」
アイツが僕の心をよむ。
いや、黒づくめの黒子で目立ってるって。
「チャラチャラピアスまでしよって・・・チャラいねん。下品やねん。そんな桜吹雪よう背負えるわ。趣味がヤクザ臭いねん」
アイツは顔をしかめた。
おっと言ってくれるやん。
でも、他のヤツが僕のスタジャンバカにしたら許さんけど、お前やったらかまわへんよ。
「お前にもピアスしたろか?・・・ええな、クリスマスプレゼントしたる。お揃いにしよ」
僕は思いついた。
ええ。
ホンマは指輪でもおくりたかったけど、絶対してくれへんやろ。
「アホ、ピアスは校則違反や」
アイツが呆れたように言う。
「そんなん誰も守ってへんやん。・・・僕が穴空けたる。・・・別に耳やなくてもええな。校則違反やしな・・乳首とか、チンポとか・・・僕が穴あけるからな」
なんか僕興奮してきたわ。
コイツの胸にリングとかええやん。
僕のもんやて言う印やん
最高やん。
「嫌や!!絶対!!」
アイツが真っ青になった。
僕の本気を感じとったらしい。
やるで。
「と、とにかく、オレが行く。お前は隠れてついてこい」
アイツは慌てて話を戻してきた。
まあ、確かに。
タワーマンションに住むようなヤツとは僕は縁遠い格好やしな。
僕は反対しなかった。
でも、アイツの顔に被さった前髪をかきあげ、メガネを取り上げた。
「なにすんねん!!」
前髪やメガネの内側に顔を隠したくてたまらないアイツが怒る。
「これで行き」
僕は言い切る。
ダサい恰好なんてどうでもよくなるほど、綺麗な顔がそこにあった。
ひどく痩せてて長い手足も、こうしてみるとモデルのようや。
いいやん。
「ええとこの子に見える。これなら家族が出てきても絶対疑わへん」
僕はアイツの髪を耳にかけてやりながら言った。
「わかってるんやろ。極度に顔を隠している人間は疑われる」
僕の言葉にアイツは顔を歪めた。
こんな夜遅くたずねて行くんや。
あまりに不審な恰好はようないのはアイツもわかっている。
僕の存在自体か不審や言うてるくらいやしな。
「・・・分かった。それにオレはもともとええとこの子や」
自分の顔は嫌いだが、アイツはやらなあかんことを選択した。
唇をかみしめ、顔を晒した。
堂々と。
コイツには自分の顔を晒すのは酷く焼けただれた顔を晒すくらいの抵抗があるのはわかっている。
でもそうしなければならなければ・・・そうするのだ、コイツは。
こういうとこ好き。
男らしいねんて。
「綺麗やで」
僕は心から囁いたけど、アイツは唇を歪めてそれを流した。
コイツは本当に鏡の中の自分をどんな風にみてるんやろう。
こんなに。
こんなに、綺麗なのに。
僕達はソイツの家があるタワーマンションのエントランスにいた。
さて、部屋の番号もわかっている。
正々堂々、訪問しますか。
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